第2話


 ♠



 あん?


 なんか殺気立ってないか!?

「どこから現れた!?」

「なんで、こんなに近くまで」

「妖気を探知出来なかったのか!?」

「散開!!」

 鎧騎士そう叫ぶなり、腰の剣を抜いてオレに斬り付けて来た。



「わっ、わわわっ」



 危ねッ。

 なんだよ、コイツ!!

「おのれ、よくぞかわした」

 いや躱すもなにも、けなきゃ危ねえじゃん。


「ローウェル!!」


 金髪の女の子が叫ぶや、彼女の放った矢がオレの首筋を掠めて背後の森にスッ飛んで行った。

「あっぶねえな」

 オレは怒鳴りながら真横に跳んだ。

 そこには足音を忍ばせ近寄っていた薄っ汚い男がいて、凄い勢い体当たりをする事になった。

「ジャミル!!」

「あ、ゴメン」

「よくもジャミルをやったな」

 そう叫んだ金髪が何本もの矢をオレにぶち込んで来やがった。

 謝ってんじゃん。

「いい加減にしろよ、この貧乳」

「なッ!!」

 金髪貧乳がひるんだ瞬間。

 ガサガサっと音を立てて、オレの頭上に子供が降って来た。

「取った!!」


 って何を。


 と、思う間に背筋に悪寒が走ったオレは、両膝をついて真横に転がった。

 その勢いで肩の上に乗った子供が頭から地面に叩きつけられた。

「悪い⋯⋯」

 オレは思わず言葉を切った。

 頭を抱えてのたうち回る子供の側に、刃渡り三十センチはある大きなナイフが転がっていたのだ。


 なに、こいつ。


 なんなのこいつ。


 こいつ、このナイフで、オレを刺そうとしてたの!?


「チャッキー」

 チャッキー?

 このガキの名前か!?

 ロクでもねえガキだなチャッキー。

「皆の者さがれ」

 それまで四人の後ろで、なんだか良く解らない独り言をブツブツ呟いていたパチモンガンダルフが、手にした杖を振りかざしてオレを睨んだ。

左手ゆんでに雷光、右手めでに蛇身、天に正十字を配し、地に真円を描かん⋯⋯」

 なに?

 パチモンガンダルフの周辺が光ってる。

 なにこれ?

 蛍?

 CG!?

 このサメのマスク、もしかしてVRゴーグルかなんかなのか?

「汝、すみやかに絶縁の扉を開きて雷霆らいていを発し、我が敵を討たん」

 ぞくっと鳥肌が立った瞬間に、オレの手地面に転がってるガキの襟首を掴んで、パチモンガンダルフに投げつけていた。



「天空を切りさッ⋯⋯」



 ガキと正面衝突したパチモンガンダルフが仰向けにぶっ倒れると、金髪貧乳と鎧騎士が血相を変えた。

「バイアンまで!!」

「おのれ!!」

 いや、ねえ、そんなに殺気走らないで落ち着いて、ちょっと話し合わない。

 鎧騎士の攻撃を躱しながら、金髪貧乳を見ると、そのほっそい指先で地面に穴を掘ってる。

 何やってんだ。

「この地を構成する大地の元素にもの申す。我が名はセシル。いにしえよりの盟約を履行りこうし、我が与力となりて彼の者を討ち果たす大槌おおづちとなれり」

 呪文を唱え終えた金髪貧乳が、自分の指先を噛み破り、血の一滴と共に何かを穴に埋め込んだ。

 瞬間。




 ズズズン⋯⋯




 と、大地がこまかく揺れた。

 なんだ、今度は何が起きてる?

 パニックを起こし掛けてるオレの目の前で、地面が人型に盛り上がり、いきなり巨大な拳を振り下ろした。


「なにやってっんのアンタ!!」


 突然現れたそれは、オレにタックルをかまして強引に真横に跳んだ。

 瞬間、地面に巨大な拳が打ちおろされ抉れた土塊が辺りに飛び散った。

 お~、凄い振動。

「なにボサっとしてんの、反撃しろバカ」

「はぁ?、反撃だって!?」

「も~、なんなのコイツ」

 地団駄じだんだを踏まんばかり剣幕でまくし立てたそいつは、弓を引き絞って矢を放った。

 弓矢だ、弓矢。

 金髪貧乳も弓矢を使ってたけど、こいつも使ってる。

「ボーッとすんな」

 ドンと胸を突かれてたたらを踏んだオレの足下に、鎧騎士の振り下ろした剣が鋭く突き立った。


 ひ~、痛そう。


「よくぞ、よけた」

 感心した風に言ってるけど

 こいつ、さっきから空振りばっかなんだよな。

 この剣も重々しく使ってるし、スピード感ってモノがない。

 最初は動転して周りが見えてなかったけど、何となく状況が掴めてきた。

 これやっぱ何かのイベントだ。

 リアル脱出ゲームとか、サバイバルゲームとかと同類のヤツで、たぶんリアルRPGとかなんかだと思う。

 そこでオレはモンスター側の配役として雇われたって事でいいのかな?

 で、オレを助けてくれてる、このターバンか何かで顔をぐるぐる巻きにしてるこいつも、モンスター側の配役って事なんだろうと思う。

 両手に短めの剣を二本持って鎧騎士と戦ってる訳だし。

 そして、この鎧騎士と金髪貧乳は勇者か何かのパーティーって事になる。



 面接官のお姉さん、もうちょっと詳しく説明しようよ。



 お姉さんは何て言ってたっけ。

 そうそうどんな方法を使ってでも、彼らの侵入を妨げなさいだったよな。

 このエリアの攻略条件が、おそらく侵入で。

 敗北条件が、ここでの撤退って事になるのかな!?

 サービス的には、ここで負けてやった方が良いんだろうけど、よりリアルな体験をお客さんが望んでるなら⋯⋯。

 オレはターバンに追いつめられた鎧騎士の足を払った。

 そして呆気なく尻餅をついたそいつの胸を、思いっ切り蹴飛ばしたのだ。 




 ゴイ~ンッッッ




 と、鈍い音を立てて吹っ飛んだ鎧騎士が、ガクリと大の字に倒れて動かなくなった。

「あ、なんか弾みで力が入った。悪い」


「ローウェル!!」


 叫んだ金髪貧乳の操る土人形がオレに迫る。

「おい、こんなのどうやって倒すんだよ?」

 VR映像の土人形の攻撃を躱しながら振り向いたら、ターバンが金髪貧乳に斬り掛かっていた。



 ♠


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