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「最悪ね。最悪」


「ほんと、ですね。なにやってんだろう、おれ。彼女の、きみちゃんの言葉が本当だと思って。かなり、焦って。俺は」


「ちがうの」


「え?」


「わたしも。好きだったのよ。あなたのことが」


「いや、あの」


「わたしはね、期弥が好きだったの。むかしから。言語野の性質は知ってたけど、わたしは、期弥が好きだから、一緒にいるとき、期弥は、自分から話してもよかったの」


「そうか。好きって思ってたら、彼女の発話も、好きになるのか」


「そう。わたしから訊けば応えてくれるし、期弥から会話をはじめるときは、最初の言葉が、好きからはじまるの」


「それなら、おれは」


「わたしがね。あなたのことを好きになったの。おかしいでしょ。目の前にいるおんなのこが好きなのに、おとこのこも一緒に好きになるとか。救われないわ」


「そう、ですね」


「そうこうしてるうちに、どうやら期弥も、あなたのことが好きかもしれないと、気付いて。最初は、どうにでもなれって思って、あなたに近付いたの。あなたと期弥、両方とも手に、入る、かも、って。ばかね私」


 答えられなかった。


「そして、あなたに期弥のことを頼んで、期弥とあなたが、仲良くなるのを、見てた」


 空の紅さ。


「もう、だめだとわかってたのにね。二人とも好きになった時点で。だめなのは、私なの。そう。わたし」


「しにたい、って、いうのは」


「わたしの深層心裡よ。期弥が言ったのは。わたしがいなくなれば、すべて上手くいく。あなたと期弥が付き合って、しあわせになる」


「酒彩さん」


「やめて。もういいの。わたしが。わたしがいなくなれば。全部解決するの」


 空の紅さが、広がっていく。


「わたし、しぬね。今までありがとう。好きだった。みんな好きだったのよ。おしあわせに」

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