第3話残虐非道

「私には全く身に覚えがありません、身の潔白を証明する場を要求します」


 私は思わず大声で反論していました。

 会場中の視線が私に集中しましたが、怒りの所為か、全く動揺などありません。

 私の中にあるのは、下劣非道な連中への怒りだけです。

 このような卑怯卑劣な連中に抵抗もせずに負けるのは、絶対に嫌です。

 本来人々を助けるための聖女の力を、このような者たちを罰する攻撃に使うのは嫌ですが、生かしておくわけにはいかない連中です。


「お前には何も聞いていないぞ、淫売の偽聖女!

 お前の父親であるエリルスワン公爵の当主ボドワンが、爵位にかけて証言しているのだ、姉のオレリア嬢も同じ証言をしている、それで十分なんだよ」


「殿下、アレを見せてみなに真実を見せつけられてください。

 不義の忌まわしい子供共々、王家の公正な罰を実行するのです」


 射殺さんばかりの恨みの籠った邪悪な眼で、姉は私を睨みつけてきます。

 その粘つくような眼つきに、信じがたい事が思い浮かんでしまいました。

 檀上にいる父も残忍で厭らし眼つきをしていますが、どうか私の想像が外れますようにと、天井の神々に祈りました、ですが、その願いはかなえられませんでした。

 何の感情も顔に浮かべない侍女が、一歳くらいの子供を連れてきたのです


「これは、偽聖女カリーヌが、ジプシーと不貞を重ねて生んだモノだ。

 このような許し難い品性下劣なおこないをする者を、この国の王妃にはできん。

 みなもそう思うであろう、まずはこのモノから殺して王家王国の誇りを守る!」


 たぶん、いえ、まず間違いなく姉の生んだ子供だろう。

 不貞の相手がジプシーというのも、姉が自分の行いを私になすりつけたのだ。

 姉は既に何度も堕胎を繰り返して、平気で自分の子供を殺す冷酷非情な女だ。

 でも、だからといって、ここまで育った自分の子を殺すのですか?

 そもそも、最初から、私を陥れるために生んで殺す事を考えていた?

 余りに非情下劣なおこないに、怒りと哀しみが心に渦巻きます。


 私は聖女です、私を陥れようとする姉の不貞の子供であろうと、殺されるのを見逃す事などできません、思わず壇上に駆けあがり止めようとしました。

 その私の行動を、嫌らしい表情で王太子が見ています。

 私の方を見ながら、短剣で子供の胸を突き刺してしまいました。

 情けなく哀しい事ですが、私の助けは間に合いませんでした。

 ですが、普段全く鍛錬していない王太子は、子供の骨すら貫けませんでした。


「回復!」


 私は子供に聖女の奇跡を与えました。

 何としてでも助けたい、その一心しかありませんでした。

 それ以外の事は、全く思いつきも考えもしませんでした。

 私のこんな心を、卑怯下劣な連中は、最初から予測して利用したのです。


「見たか、みなの者、この偽聖女は卑しいジプシーとの子に聖女の奇跡を与えたぞ。

 これこそこの子供が偽聖女の子供である動かし難い証拠だ!

 淫売女をこの場で嬲り殺しにしろ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る