1年半前・レオ視点



 定期報告会が終わり、1人になった談話室で眉間を抑える。さっきエディに癒してもらったばかりだというのに、頭が割れそうなほどの頭痛がしていた。


(最近、ひどいな)


 医師にも見てもらったが、原因不明のこの慢性頭痛はストレスによるものだと片付けられてしまった。確かにストレスのない日々を送っているかといえば答えはノーだが、俺にはこれの原因がただのストレスとは思えなかった。


(もっと別のもの。俺が見落としている何かだと思うんだけど)


 頭が痛むせいで、最近は思考がまとまらない。さっきの報告会でも、明らかにナタリーの様子がおかしいのに、何のフォローもできなかった。


 それどころか、抑えようと思っていた弱音や愚痴を口にしてしまう始末。


(いったい、何だっていうんだ)


 一向に解決しない問題に、疲弊するエディと目に見えて弱っていくナタリー。俺が先陣を切って2人を励まし、前を向けるように手を引かねばならないというのに。


「くそ……」


 あまりにも不甲斐なくて、舌打ちしたくなる。あんなに偉そうに、悲しい顔はさせないとナタリーに言ったくせに。悲しい顔どころか、気を使わせて無理に笑顔を作らせてしまっている。


「情けなすぎる……」


 口にすると、想像より弱弱しい声が出て不思議と泣きたくなった。誰もいないのをいいことに机に突っ伏して、ため息を吐く。


 そろそろ、タイムリミットが迫っていた。


 このまま、ジョゼフがナタリーのことを思い出さなければ、彼女はあいつの婚約者から外されてしまう。今は魔法で真実を覆い隠しているが、この半年で状況は目に見えて悪くなってきている。


 元々、ユリの存在が明らかになった時に、公爵家の娘をもらうより、光魔法の使い手を王家に取り込んだほうが有益だと考え、ジョゼフの婚約者を彼女に挿げ替えようと目論む下種な輩はいた。


 それをジョゼフ本人、そして周りが抑え込み、2人の婚約は変わらず成り立ってきた。けれど最近ではジョゼフがユリと懇意にしているうえに、いくら魔法で隠しているとはいえ、ジョゼフ自身がナタリーとの婚約を認知していないのだ。


 恐らく水面下でそういった動きは進行していると見て間違いない。もし、このまま何の進展もないまま時が経てば、俺たちでは動きを抑えることは難しくなる。


(だから早く、糸口を見つけなきゃなんないのに)


 記憶喪失の原因は、その尻尾さえ見せてはくれない。


 婚約破棄になるとなれば、ナタリーはどんな顔をするだろうか。


 想像しただけで耐えきれない気持ちになって、俺は机に深く息を吐きだした。



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