2年前・頼りになる人①



 神秘的な光が灯る学園寮の裏庭。導かれるようにしてきたけれど、何故だかそこには私しかいなかった。こんなにも素敵な場所ならば、生徒たちがこぞって集ってもおかしくはなさそうなのに。


 先ほどまで1人だったそんな空間に、今はレオもいる。それだけで1人で感じていた切なさが不思議と拭われていくようだった。


(1人になりたいと思って、でも部屋にこもりきりも苦しくて出てきたのに。隣に誰かいることに、こんなにも安心するなんて)


 1人になりたいと思うだけで、結局は誰かにそばにいてほしいのだ。


 静かな時の中、神秘的な光を目で追っていると、レオの吐息が空気を震わせた。


「……ナタリー、制服がよく似合ってるよ」

「え?」


 思いもよらぬ言葉に、目を瞬く。てっきり慰めの言葉などをかけられると思っていた。驚いてレオを見ると、悪戯っぽく微笑まれる。


「俺たちが入学する前夜を覚えてる?」

「夜にこっそり訪ねてきてくれた日ね」

「ああ。あの時、君はすぐに俺たちに追いつくと言った。その通りだよ。カワイイ妹が、今じゃすっかり大人のレディだ」

「まあ! それって本気? からかってるの?」

「ひどいな、疑うわけ? 俺のこの真剣な目を見なよ」


 言いながら、レオが深紅の瞳を近づける。彼の真剣さを見極めるためにじっと見つめていると、不意にレオが吹き出した。


「やっぱりからかってたのね!」

「いやー、本気だったんだけど。馬鹿正直に俺を見つめる君が可愛くてさ」


 レオはおかしそうに笑って私を見た。


 彼にからかわれるのは、子ども扱いをされているようで昔はあまり好きではなかった。同年代の子どもたちの中でも魔法の技術が高く、大人にも認められる彼とはやく同じ目線に立ちたくて、きっと背伸びをしていたのだと思う。


 けれど何故だか今は、レオにからかわれるのがくすぐったくて、嬉しいような心地がした。


 こうして当たり前に過ごせていた日々が、そうでなくなると知ってしまったからかもしれない。変わらないこの関係が、とても愛しく思えた。


「……ジョゼフも見たかっただろうな、君の制服姿」

「さっき、会ったじゃない」

「そんなの君を知るあいつじゃなければ意味がないだろ。ずっとあいつも楽しみにしてたんだ、俺たちと揃いの制服を君が着るのを」


 それは、彼から送られてきた手紙にも書かれていた。揃いの制服で学校に通うのが楽しみだと。


「ああ、でもあいつが記憶を取り戻したら、とんでもなく嫉妬されそうだな。俺は」

「どうして? レオと私に嫉妬なんてするはずがないわ」

「……君さ……。今、俺とジョゼフ両方を敵に回したよね」

「え!?」


 どうしてと目を見開く私に、レオは機嫌悪そうに眉をしかめた。


「やっぱり君はお子ちゃまらしいね」

「どうしてそうなるのよ」

「まさか気付いてないわけ? 君と話す度、俺はあいつに刺し殺すような視線を向けられてただろ」

「嘘よ!」

「はぁ?  君の王子様はそんな顔をしないってか? 君に話しかける時、俺はいつも命がけだってのに」

「ふふっ、なにそれ。大げさすぎるわ」

「笑い事じゃないんだけど? ここは、俺が命を犠牲にしながら君との時間を優先していたんだって、感動する場面だ」


 冗談らしく言いながらも、優しい目をしてレオは笑う。きっと私を笑わせるために、わざと大げさに話してくれているのだろう。その優しさが、胸を温かくする。



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