2年前・レオ視点②
(どこにいったんだ、あの子は……)
夕食会を終えてしばらくして、俺はナタリーの部屋を訪ねていた。とはいえ、女子寮には入れないので、女子寮監に彼女を呼ぶよう頼んだのだが、どうやら不在らしかった。
慣れない学園で、彼女が無闇矢鱈と出歩くとは思えない。魔法通信に出てくれたら手軽なのに、こういう時に限ってナタリーは通信に出てくれなかった。
(俺って、汗水垂らして女の子を探すようなキャラじゃないんだけどな)
でもどこかでまた、あの子が1人で泣いてるのかと思うとじっとしているわけにはいかなかった。
(仕方ない、こういうのロマンチックじゃないけど)
感知魔法を使って、ナタリーの魔法の気配を探る。すると、思ったより近くに彼女の気配はあった。そこは、学園寮の裏庭にある魔法の泉。夜は不気味だとあまり人は寄り付かない。確かに、1人で泣くにはうってつけだ。
夕食会で見た涙の痕を思い出すと、気づけば走っていた。頼むから、1人で泣かないでほしい。その悲しさを、俺が少しでも引き受けるから。
息を切らして魔法の泉に行くと、彼女の姿が見えて一度立ち止まった。そして軽く息を整える。ほとんど無意識の行為に、苦笑を漏らした。
焦って走って来たと思われたくないなんて、どこまでかっこつけなんだ。
「……ナタリー」
噴水の枠に腰掛ける彼女へ声をかける。びくりと肩を揺らしたナタリーが、驚いた様子で俺を見た。
「レオ? どうして……」
「ここで、君がすすり泣く声が聞こえてね」
「嘘!」
「うん、嘘。感知魔法使ったんだ」
冗談ぽく言いながら隣に腰かけると、拗ねたように睨まれた。
「からかったのね」
「あながち嘘じゃないだろ? 化粧ごときで、俺を騙せると思った?」
「……そこは気づいてても、気づかないふりをするのが紳士よ」
「あいにく俺は紳士じゃないんだ」
「そういえばそうだったわ」
互いに小さく笑い、沈黙が落ちる。
あたりにはゆらゆらと魔力のかけらが舞っている。この噴水の水は魔力を多く含んでいて、舞い上がる水から魔力のかけらが飛び散る仕組みになっていた。
それを眺めながら、言葉を探す。
こんなとき、闇魔法というのは使えない。ただ、隣に座る女の子を笑顔にしたいだけなのに、いくら研鑽を積んだ立派な魔法も剣技も役に立ちやしない。
こういうとき、必要なのは言葉の魔法だ。どの言葉を選べば、君はいつもの笑顔をその顔に乗せてくれる?
ジョゼフの持つ言葉の魔法の威力には、遠く及ばない。けれど、今の俺だからこそかけられる言葉を探して、思考を駆け巡る。そしてようやく答えを1つ見つけると、俺は口を開いた。
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