2年前・不安な入学式
ついに、私とエディの入学式の日がやってきた。
1年前はずっとこの日が楽しみで、早く来ないかと毎日急く思いで過ごしてきた。けれど、今日の私は学園に向かう馬車の中、底知れない不安に包まれていた。
「ナタリー、大丈夫……?」
「ごめんね、こんな辛気臭い顔しちゃって。せっかくのいい日なのに」
無意識にため息がこぼれてしまう。理由はもちろん、ジョゼフのことだった。
「きっと何か事情があったんだよ。試験も厳しいって聞くし、勉強に忙しくて手紙や通信ができなかったんじゃないかな?」
「3ヶ月も?」
「いや、ほら、入学式の準備も在校生がするみたいだしさ?」
「1回も送れないくらい?」
「う、うーんと……」
流石に何も言えないのか、エディが困ったように唸り始めてしまう。
「ごめんなさい、エディを責めてるわけじゃないの。きっと何か事情があったんだって、私も思いたいんだけど……でもあの人、学園に行く前は私が困るくらいに手紙も通信もするって言ったのよ? 本当に困ったのは最初の3ヶ月だけ。次の3ヶ月では半分の量になって、その次の3ヶ月はさらに半分になって、ついには音沙汰なしになったわ」
「ど、どうしたんだろね?」
「私に愛想が尽きたのかしら……」
「まさか! ジョゼフに限ってありえないよ!」
「でも最後の長期休暇じゃ、顔も見られなかったのよ! あの人、休みだって言うのに公務以外は魔法学園にいたらしいじゃない」
「みたいだね……」
最初の夏季休暇の時はいつものジョゼフだった。私が聞いたら魔法学園のことを話してくれて、けれどそれ以上に私の話を聞きたいと笑ってくれた。おかしくなり始めたのは秋の休暇からだ。夏季休暇の時はすぐに私へ会おうと連絡をくれたのに、なぜだかなかなか連絡が来なかった。ようやくきたと思えば、ティータイムでも上の空。私の話は右耳から左耳へ流れて行っているようだった。冬季休暇では痺れを切らして会いに行ったら、忙しいからと乱雑な対応をされた。極め付けの春季休暇は、学園にこもりきりときた。こんなの、不安にならないはずがない。
「レオも、戸惑っているみたいだったよ。手紙で言ってたんだ。詳しくは僕たちが学園にきてから説明してくれるみたいだけど」
「私のところにもきてたわ。レオにしては珍しく焦った文字だったわね」
それが余計に私を不安にさせる。何か意地の悪い悪戯だと言われた方が、ずっといい。
「くだらない内容なら、いいのに。いっそ、私に愛想を尽かしたならそれでもいい」
「ナタリー……」
「それなら意地でももう一度振り向かせられるもの。……もし、レオが変な呪いにでもかかっていたりしたらどうしよう、って不安なの。ダメね」
「大丈夫だよ、ナタリー。きっと、大したことないはずだ。ジョゼフが簡単にそんな呪いにかかるはずがないよ」
「そうよね……」
つい落ち込んで、洗いざらいの不安を吐き出してしまった。暗い空気を払拭させようと、エディが明るい声をだす。
「そういえば、ジョゼフたちの代にすごい魔法使いがいるって話だったよね」
「あ、確かに最初の方の手紙に書いてあった……。珍しい光魔法の使い手がいるのよね」
「うん! 100年に一度くらいしかお目にかかれないらしいよ。それも魔法の出力が前回の持ち主に比べてずば抜けているらしい。魔導研究局が大騒ぎさ」
「どんな魔法か見てみたいな。浄化作用があるんだっけ?」
「一般的な治癒魔法はいろんな属性を複合させて使ってるけど、光魔法は傷や病の記憶を体から消してしまう浄化の力を持つからね。魔力に限界はあるとはいえ、他の属性とは比べ物にならない力があるよ」
想像しただけで、とんでもない能力だ。伝説や書籍でしかみたことはないけれど、そんな力が本当に実在するならば、もうそれは人や魔法の力を超えた存在のように思う。
(どんな人なのかしら……)
もしその人が本当に浄化の力を持っていて、ジョゼフがもし何かの呪いなどを受けてしまっているなら、どうか救ってもらえないだろうか……そんなことを思っているうちに寝不足だったせいか、私は眠ってしまっていた。
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