7章 決戦・真実
第21話 例え足手まといでも
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振り返ってみて、わかった。あたしを攻撃した犯人は、ひとりの少女だった。
「……ごめんなさい。だけど、私、あなたを止めなくちゃ」
目を見開いた私に、彼女はそう言った。それはそうだ。あたしは止められてしかるべき存在だ。だけど、あたしは納得が行かなかった。
「なんで、なんであたしがそうだって、知ってるの?」
藁にもすがる思いって奴。自分の体が乗っ取られ、知らぬ間に殺人を繰り返している。そんな状況、耐えられる?
その子は、「だって、魔力が強過ぎる」とだけ言った。
「わかんないの、あたしにも。どうしてあたしは、こんなことしてるの?」
ほとんど叫ぶように、あたしは彼女に問い掛ける。だけどその子は、首を横に振った。
「わからない。私も、教えてもらってない。だけど、あなたを、捕まえろって……」
あたしはため息を吐いた。彼女のバックに何かがいるのかもしれないけれど、彼女自身は何も知らないようなのだ。そして、彼女のバックにいるその存在は、あたしに敵意むき出しだ。教えてもらえる訳がない。
「わかった。だけど、みすみす捕まえられる程、あたしはやわじゃないよ」
それからあたしは彼女に魔法で攻撃を仕掛けた。だけど……その子は、強過ぎた。あたしはすぐに、追い詰められたよ。その瞬間、ふと、意識が飛んだ。そして気付けば、彼女は消えていた。
あたしは、首を横に振った。あたしは、彼女を殺してしまったのだろうか。それから、不意に恐ろしくなった。あたしはもう、とんでもないことに巻き込まれている。手遅れなのだ。もう既に。今回は勝てたらしいけれど、あたしの存在はもう、あってはならないものなのだ。
ならばいっそ、自分を殺してしまおうか。そんな風にも思った直後、背後からまた、声が掛かった。
「……ごめんなさい」
あたしは振り返る。そこにはさっきの少女が傷だらけで倒れていた。
「なんとか、隠れてた……」
よかった。生きていた。あたしは安堵に包まれながら、急いで彼女にヒーリングを掛ける。彼女はそれで、しばらくの後に立ち上がった。
「ごめんなさい。私、全然知らなかった。お父さんが、そんな危ないことしてるなんて」
「え、ごめん、どういう……」
「生き返らせることが、世界の崩壊に繋がるなんて、そんなこと私、知らなかった……」
こうしてあたしは、彼女の口から、あたしが語ったという真相を聞かされることになった。
曰く、生き返りの存在が、世界のバランスを崩す。だからこそ、あたしは生き返りを殺していたのだという。
「世界のバランスが崩れる時、世界は全てを無に戻す。ゼロに向けて、時間がさかのぼる。それは避けられないことなんだって、あなたが言ってた……覚えてないの?」
全く知らない。だとするとそれは、あたしに取り憑いている何者かの発言だということになる。
「ねえ、ちょっと待って。あんた、そんな訳のわかんない存在の発言、信じるの?」
「え?」
「あたしに憑りついてる奴がなんなのか、あたしですらわからない。それなのに、信じられる? あたしという強力な依り代を手放したくないから、嘘を吐いてるんじゃないの?」
「……死の神だ、って言ってた」
「え?」
「あなたにとりついている、その存在、死を司る神だって言ってた。嘘じゃないと思うけど……うん、そうだ。調べないと駄目だね、それ」
彼女はそこで、思い出したように名乗った。
「私はアリス。魔法研究所の、所長の娘、です」
「あたし、ゾーイ。どこの誰でもないような孤児だけど」
○
あたしは愕然と、その話を聞いていた。それから何度も何度も、二人に向けて確認し、ようやくひとつの答えを得た。
「生き返りを殺し直す役目をジル……ゾーイ?」
「ジルでいいよ」
「わかった。ジルが担ってて、それをアリスが、止めようとして。
だけど、ジルがそうしてたのは、この世界が崩れるのを防ぐため……」
「そういうこと」
あたしは大きなため息を吐いた。世界の崩壊。時が巻き戻ること。世界の安全が、あたしたちの周りの全ての命が、この二人の双肩にかかっていた。魔法が全く使えないなんてそんなもの、屁でもない。蚊帳の外で当然だ。
凄過ぎた。あたしなんかの想像を、遥かに超えている。
「……でも、あたしも行った方がいいんだよね、それなら」
「うん。それでいいのかはわからない。だけど、あたしとアリスだけじゃ、間違いなく駄目」
そうらしい。到底信じられないけど、この二人だけでは望まれない結果が起こるらしいのだ。
「アリスのお父さんが、生き返りを主導してるんだよね」
アリスが頷く。あたしは、なおも問い掛ける。
「説得しても、通じないんだよね」
ジルが頷いた。アリスも「たぶん」と同意する。
「アリスと、ジル。二人がかりでも、勝てないんだよね」
「勝てなくはないけど、残酷な結果が待ってるだけだと思う。誰にとっても」
ジルがあたしに向けて、そう言った。
「そんな人と、あたしが……」
戦わないと、未来を切り開けない。時が遡り、あたしたちは。
「……私は、いいよ」
「それは駄目! ……アリスだけを危険な目には、遭わせられないし、遭わせたくない。でも、自分の子どもを……」
「お父さんは、うん。やりかねない。目的のために一生懸命だから」
アリスがうつむいた。そのまま続ける。
「でも、説得できなくても、お父さんが私を殺そうとしても、私は、殺したくない。私は、これでも、お父さんのこと、好きだから」
アリスは半分泣いていた。歪み切った顔で、けれど寸前で、涙をこらえている。あたしはあたしで、震えていた。
だって、怖いのだ。それ程の相手に、魔法の一切使えないあたしが絡んで何になる。戦力にならないどころかむしろ、足手まといになるんではないか。そしてあたしはその末に。自分の娘にすら躊躇わないような人なのだ。娘の友達は何のステータスにもならないだろう。
ジルが、全てを切り裂いた。
「何かを変えないといけない。このままじゃ、何も変わらない。変えられない」
わかっている。だけどどうしろと言うのだ。
アリスが「改めて突き付けられると、辛いよ」と笑った。どう見ても、無理がそこに滲んでいた。
あたしはふうと息を吐く。どうしようもない、ことはない。やるしかないのだ。世界のために。数々の命のために。そして何より、あたしのために。あたしは、やらないといけないのだ。
アリスは強い。だけど弱い。その弱さを補えるとしたらやっぱり、あたしだ。
あたしは立ち上がり、そして宣言する。
「わかった。どうすればいいのかはさっぱりわかんない。だけど、あたしやる」
アリスがこちらを見て、それから少し、その表情を和らげた。そんな時。
「うん、さすがミリア」
ふと声が聞こえた。ママだ。
「話は全部聞いたよ。ジルちゃん。ありがとう」
「いえ、まだ何も、やってないです」
「ううん、ありがとう。ミリアの親として、これは言わないといけないから。
さて、所長の暴走の話ね。止めないといけないんでしょ。私も協力する。当然だけどね」
ジルから聞いた。生き返りを行う程の魔力は、あたしの中にあった、そしてパパに移された魔力を使っているのだということ。そして。
「この中に、その魔力はあるんです」
アリスが黒いキューブを手に持った。ママがそれを手に取り、まじまじと眺める。
「これだけのサイズでできたのか……頑張ったんだな、みんな。
所長、それを娘にやらせるなんて、親として恥ずかしくないのかなホント」
誰に聞かせるでもなくそう呟いて、ママは顔を上げた。
「まあいいや。とりあえず今日はもう遅いし、やることやって寝ちゃいましょう。明日からゆっくり考えればいいよ。
アリスちゃんは……頑張って。気付かれないように」
アリスがこくりと頷いた。言われて気付く。アリスは今から、帰らないといけないのだ。自分の父親が待つ、家へ。
「ジル、タイムリミットはいつぐらいなの?」
「あたしも詳しいことは知らない。だけど……急がないといけないことは確かだと思う」
「生き返りは、私、まだやってる。やめちゃ駄目だよね。気付いたって、バレるから」
「仕方ない。なるべく急いで、方策を考えないと」
翌日、何事もなかったように席に着いているジルを見て、みんなが口々に謝る。ルミアに言われてやったのなんて言っているのを聞いて、あたしはぞっとした。ジルも呆れたように言い放つ。
「あんたたちのいじめなんて、どうでもいいよ。別に傷付いてもない。うざったかったけどさ。あたしが来なかったのは、単にあたしの問題。ほっといて。罪悪ゲームに巻き込まないで」
その言葉で、周囲から人が引いていく。何、今の。そんな声が聞こえる。あたしはルミアを振り向いた。それからそちらへ向けて歩みを進める。
「ありがと。見付かったよ、無事」
「よかった」
素直に一言、彼女はそう言う。あたしは微笑んだ。
「これからよろしく」
あたしは手を差し出す。ルミアも躊躇いがちに、それに手を伸ばした。あたしたちの手が重なる。
「それじゃ、まあ、授業の準備をしますか!」
あたしの脳天気な声が、沈黙の教室を切り裂いた。そこからあふれ出すのは、ざわめき。何、どういうこと?
席に着いたあたしに、フームが声を掛けてきた。
「どういうことだ?」
「和解したの。それだけよ。フームも別に、友達でぐらいいてあげたら?」
「それはまあ、そのつもりだけど」
アリスがあたしの所にやって来た。それから曖昧に笑みを浮かべる。
これは、どうなのだろうか。紛れもなくいい変化だけれども、これは何かに寄与するのだろうか。
昼休み。あたしたち三人の昼食会に、ルミアもやって来た。ルミアは何も言わず、弁当を広げる。あたしが昨日の一幕を軽く説明した。
「そういうことか」
ジルが頷いた。それからルミアには何も言わず、ただただ弁当を食べ始めた。作戦会議をする訳にもいかず、ただただ沈黙が流れる。それを遮ったのは、アリスだった。
「まあ、あのさ。魔法が得意な同士、よろしくね」
「はーホント、バカみたい。あんたに言われても、皮肉にしか感じないって」
「え、ご、ごめん……」
「謝らないでよ。これでも褒めてるの! あーもう」
あたしは笑った。素直になれないんだろう。こういう面があるのなら、あたしは彼女のことを、好きになれるかもしれない。心からそう思う。
「ところでさ、あんたたちって、どんな話してるの? タイプが全員バラバラだけどさ」
あたしはうっと言葉に詰まる。確かにそれは微妙なのだ。あたしとアリスだけだった頃は、他愛もない話をしながらただただ弁当を食べていただけだ。将来について語り合ったり、剣について話したり、魔法について教えてもらったり。だけど、ジルが来てからはずっと、ジルについての話題ばかりで。
「あたしの話だよ」
ジルが何の気なしに言う。
「あたしの記憶がなかったから、それを探るために話し合ってたの。思い出したけどね、全部」
ルミアがえ、と問い掛けたままフリーズした。端正な顔が台無しだ。あたしは「いいの」と問う。
「うん。これからも仲良くするつもりなら、隠しても無駄でしょうよ」
「そ、それ……」
ルミアはもう、問い掛ける言葉も見付けられないようだった。畳みかけるように、ジルは語る。自分の経歴。アリスの経歴。そして、今なおこの世界に危機が迫っていること。アリスも止めなかったから、あたしも止めなかったけれど、いいのだろうか、言ってしまって。
ルミアは、あまりの情報量にうつろな目でこう問い掛けることしかできなかった。
「あんたたち、何者なの……」
「絶対に、誰にも言わないでよね」
「当たり前よ! 言える訳ないでしょそんなの……」
あたしの念押しに、ルミアはこちらの世界に戻ってきたらしく、それから嘆息した。
「そんなの、勝負するだけ無駄よ、全く。同じ土俵に立ててたの、ミリアだけってこと?」
「まあ、そうなるね、うん。あたしはただ、剣が強いだけの普通の人だから。魔力はないけど」
「ま、これで割り切れるな。絶対に、勝てない。降参。白旗。
でさ、あたしに話していいのそれ」
「うん。とりあえず、あたしたちが消えたら、それを伝える係がいて欲しいから」
ジルの言葉にも、ルミアはもう、驚かない。少し目を閉じて、それから言った。
「わかった。あんたたちが揃って消えたら、それはあんたたちが負けたってことだから、それを誰かに伝えてってことね」
「そういうこと。現にあたしたちが揃って消えたという確固たる証拠があれば、話は説得力を帯びるはず」
「わかった。で、ミリアはどうするの? 戦って、勝てるとは思えない。申し訳ないけど、これはひいき目抜きに、剣だけじゃ、魔法に敵わないよ。いくらあんたが凄くても、所詮は子どもなんだから」
「それは……」
あたしは黙り込む。青々とした空に、雲が流れて行った。あたしはやっと口を開く。
「わからない。あたしだって、あたしがいて、なんになるのかはわかんない。だけど、あたしは行く。例え足手まといでも、何かが変わるなら」
「変わる?」
ルミアの問い掛けに虚を突かれ、それからあたしは慌てて言った。
「あ、いやなんでもない。じゃあ、そろそろ戻らなきゃ。弁当……みんな残っちゃったね」
「仕方ないよ。そのぐらい大事な話だったんだから」
ジルがそう言い放つと、まだ半分も残っている弁当を片付け始めた。あたしたちもそれに習う。
◆
目を覚ます。俺は薄暗い廊下に転がっていた。どうやら戦いは終わったらしい。ゆっくりと体を起こす。
目に入ったのは、傷だらけのラーニャだった。俺は弾かれたように立ち上がり、それに駆け寄る。
「ラーニャ!」
叫びながら、ラーニャの体を揺すぶる。ラーニャが体を震わせた。
「お……に……」
「喋るな! よかった、生きてて……」
俺は目を閉じる。涙が滲む。口角が上がっていく。よかった。とにかく、ラーニャは生き延びた。だけど、危険だ。急がなければ。
俺は辺りを見回した。ゾーイがどこかにいるはずなのだ。どこにいる。俺は拙い魔法で炎を灯し、灯りに代えた。どこにいるのだ。
「ゾーイ!」
けれど、薄暗い通路の中、返事は反響する俺の声だけ。その姿は、どこにもない。俺は半狂乱になりながら、ゾーイの名前を叫んだ。どこにいるのだ。返事をしてくれ。
その叫び声が、所内の人を呼び寄せていた。
俺は、ぽつりぽつりと、わかっていることを研究所の面々に話した。連続失踪に、妹のラーニャが巻き込まれ掛けたこと。それを封じるために、ゾーイという少女が俺たちを護ろうとしてくれたこと。受け身じゃ埒があかないと、乗り込んで戦ったこと。
話したことは、賭けだった。研究所内では、知らない人が多数だという。だが、少数ながら知っている人はいるだろう。それに、情報を流すことになりはしないか。しかし俺にはもう、その賭けに乗らないという選択肢は残されていない。所内で乱闘騒ぎを起こし、妹は傷だらけで倒れていた。今わかっていることを全て話さなければ、俺たちに平穏は与えられない。それでも、夢の中の情報だけは隠していたかった。あれは、護らなければならない秘密だ。間違いなく。
「なるほど……」
白く、胸まで届くような立派な髭を蓄えた老人が、苦虫を噛みつぶしたように呟いた。それからしばしうなり、それから言った。
「ゾーイと犯人が消えた、と言いましたな?」
「はい……」
「彼女らは、相打ちとなり、魔力空間に隔離されたのでしょうな」
俺は彼を見つめた。彼は肩をすくめる。
「二度とは出られまい。詳しいメカニズムを説明することもできますが、どうしますかな?」
「あ、いいです。わかるとは思えないんで」
「……向学心のない若人よ、そういう態度がよくないのですぞ。まあよい、緊急事態ですからな。
妹さんは、ヒーリング魔法を掛けました。じきに、目を覚ますでしょう」
「何か、この件について知らないんですか?」
「いや、私は与り知らぬことですな。ただ、何かを知っている人はここにいました」
いました。過去形だ。つまり今は、いない。アリスの話通りだ。わかっていた。ここにはもう、情報は落ちていない。
俺の手元には、彼女の剣だけが残されていた。その剣の柄の部分には、黒い塊がはめ込まれている。それ以外には何も変わった所のない、ありふれた彼女の剣。俺が得たのは、それだけだった。そして、失ったものは、あまりにも多く、そして大き過ぎた。
○
三人で、あたしの家に帰り着く。ママは今日、仕事を休んだ。昼だというのに活気のない一階の店で、あたしたちは四人、顔を突き合わせる。
まず口火を切ったのは、ママだった。
「行くしかない。所長を止めれば、あの人は帰ってくるんだから」
「パパのこと?」
あたしの問い掛けに、ママは頷いた。
「テレポートで侵入する。ミリアの分も、三人の力が合わされば簡単に補えるはずよ」
それは、そうだろう。ジルも、アリスも。ママだって、あたしの予想以上に、魔力が強いのだ。この三人であれば、あたしの分を補って、なお余るだろう。だけど、やはり思うのだ。
「これ、あたし要るのかな」
「うん。いて欲しい」
そう言って頷いたのは、アリスだった。あたしがそちらを見ると、アリスは詰るような目をママに向けていた。
「たとえこの関係が仕組まれたものでも、私は、ミリアにいて欲しい。私たちは、二人でひとつ。そう言ってくれて、凄く嬉しかったから」
はっとする。そうだ。こう言って来たのは、他でもないあたしだ。
あたしとアリスは、二人でひとつ。お互いに支え合って、一緒に戦おう、って。魔力について発覚してからその意味合いは変質したとはいえ、その約束は消えてない。
あたしは自らの頬を張った。あたしのバカ。なんでこんな大事なこと忘れていたんだ。
「ごめん、そりゃそうだ。あたしも行く。アリス、よろしく」
アリスも頷いた。と、アリスが小さく囁く。ママが「ごめんね、ホントに」と口を挟んだ。ジルが「それじゃ」と遮る。
「テレポートで所長のとこまで行ったとして、後はただ、戦うだけ?」
「……説得できるなら、そりゃしたいけど」
アリスが消え入りそうになりながら言った。できないのだろう。アリスママについては知っているが、パパについてはほとんど何も知らないあたしは、閉口するしかない。
「魔法を使えなくする魔法を唱える隙をなんとかして作りたい。そのために、まずは戦わないといけないとは思う」
アリスの言葉を、ママが遮った。
「それについてだけど、私は少しだけ、別行動したいの。最初から戦力を全て出す必要はない。それどころか、最初から全員で行ってしまったら、相手はそれに合わせてくる。あなたたち三人がやられそうになった時、私が助太刀する。不意打ちの攻撃の方が、間違いなく効くはずだから。そうしないと、勝てない」
「その間に夫を捜すと。まあ、いいですよ。場所はわかってるんですよね?」
ジルの問い掛けに、ママがある場所を答えると、アリスが頷いた。
「よかった。場所は変えてないのね。それと同時に、捨ててなくて本当によかった」
「まだ、魔力が残ってるみたいだから」
「まだあるの! わかってはいたけど、本当にミリアには、多くを継ぎ過ぎちゃったみたいね……」
あたしの中にあった魔力というのは、それだけのものだったのか。自然の摂理に逆らう程の力を生み出してなお、余る程に。改めて、恐ろしくなった。
「魔法って、怖いね」
強過ぎる力は、どれだけの事故を起こすのだろう。パパの死も、今回の事件も。そもそもジルやアリスの辿ってきた遍歴も。どれもこれも、強過ぎる魔法のせいだ。
「だけど、だからこそ奥深いし、もっと詳しく知りたくなる」
ママがそう言って笑った。
「ミリアにはまだ難しいかな。だけど、自分より強い相手と剣で試合する時、わくわくしたりしなかった? それと同じ」
「……まだわかんないや。そんなことより、早く行こう。いつタイムリミットなのかもわからないんだしさ」
あたしは立ち上がる。
「魔法が強いなら、あたしは足手まといになるかもしれない。相手は容赦なく、あたしたちを殺しに来るかもしれない。だけど、大丈夫。全部避ければいいんでしょ?」
「ま、それもそうね。それじゃ、行きますか! ほら、アリスも」
「うん」
小さな、だけど確かな声で、アリスも頷いた。よし、とママが締める。
「それじゃみんな、手を繋いで。やろう」
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