第2話 彼の故郷

 よく見ると路地の片隅に雪だるまが存在している。

 空は分厚い雲に覆われているのに雪だるまは光を帯びている。イルミネーションではないようだ。

 更にそれの表情が変わっていく。さっと身構えたが、彼?は優しい微笑みを浮かべている。その光景はまるでユートピアに迷いこんだようであった。

「話を聞いていただけますか」

 彼が一心に頼むため、私は地面にしゃがみこみ、彼と対面した。


 驚いたことに雪だるまは人間だったという。 


「私は確かに死んだはずです。たぶん……」

どっちつかずな言葉に応答に困る。

「は、はぁ……」


「とにかく記憶が曖昧なのです」

「そうですか……」


私は「お気の毒に…」とかいろいろな質問が頭に増幅されているが、謂いかけてやめた。

 一通り話すと彼は満足そうな表情をしながら私を気にかけた。冷たいはずの顔から温和な視線を送っている。


「あなたの話もお聞かせ願えますか」


ここまで聞いて断る理由もないので、一通り彼に付き合うことにした。

 ぱらぱらと堕ちる雪の中、雪だるまと二人だとは…なんとも虚しいものだろうか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る