私の夫は吸血鬼くん (現代ファンタジー)
「よし、今日で丁度半年」
「長いようで、何だかあっという間だったわね」
カレンダーにバツをつけながら満足そうに笑う太陽。だけど私はそんな彼を、少し複雑な気持ちで見ていた。
何が半年なのかって? 太陽が私の血を、吸わなくなってからよ。
半年と少し前に、晴れて夫婦になった私達。そんな結婚した直後に、太陽が言い出したのだ。
『依存症を、直すことにするよ。もう皐月さんの血は、絶対に吸わないから』
太陽は定期的に私の血を吸わないと禁断症状が出る、特定血依存症。
だけど最近、これに効く薬が開発されて。今では治療に勤しんでいる。しかし。
「ねえ、もしどうしても吸いたいなら、無理に我慢することなんてないんたからね」
「無理だなんてそんな。迷惑をかけるわけにはいかないよ。僕は血を吸いたいから結婚したわけじゃ、ないんだもの」
眉を下げて、小さな声で言う。
太陽が血を吸うのをやめた理由。何でも、最愛の妻を食料のように扱うような旦那になんて、なりたくないのだとか。
だけど私は最初その話を聞いて、チクリと胸が痛んだ。
「あのね、私も依存性を直す分には反対しないから今日まで協力してきたわ。だけど別に、吸血自体は悪いことじゃないでしよ。太陽は吸血鬼なんだから、欲しがるのは当たり前だもの」
「でも、これくらい我慢しなくちゃ。皐月さんに負担をかけてばかりなんて、最低の夫じゃないか」
「ふーん。だったら私はどうなるの? 血が欲しいって思ってる吸血鬼の旦那にちっとも吸わせてあげないなんて、最低の妻じゃないの?」
「それは……」
言葉につまる。
そもそも私は、血を吸う事が悪だなんて、思っていないんだよね。
「私はね。太陽が吸血鬼だって知ってて。血を吸う部分も含めて、好きになったんだから。私の好きな人の事を、否定しないでよね」
血を吸われる時は、やっぱり少しは痛い。だけど、一方的に太陽に我慢させるよりもずっといい。
どちらか一人が我慢するんじゃなくて、お互いに支え合う。それが家族ってものじゃない。
血を吸われる覚悟なんて結婚を決めるよりずっと前から、できていたんだから。
「少しは吸わないと、かえって体に悪いんでしょ。半年頑張ったご褒美、今日は久しぶりに、吸うといいわ。と言うか、吸いなさい!」
いつも吸われていた左手を差し出す。
太陽は恐る恐るといった様子だったけど、やがて決心したみたいに、その手を取った。
「ありがとう、皐月さん。……いただきます」
キスをするように、唇が指に触れる。
歯を立てられて痛みを感じたけど、それは本の一瞬。後はそんな指先からトクトクと、血を吸われていく。
何度やられても、こそばゆい感じがする。
だけどこれでいい。この吸血は単なる食事じゃない。
吸血鬼の夫と、そんな彼を添い遂げると決めた私の、絆の行為なのだ。
※すみません、今回も千文字を、オーバーしてしまいました。
この二人を書くと、毎回長くなってしまいます(>_<)
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