同棲中の吸血鬼くん ~最愛の弟~ (現代ドラマ)

『そう、太陽さんがついにプロポーズを。おめでとう、姉さん』


 スマホ越しに祝福の言葉をくれるのは、弟の八雲。

 可愛くて優しくて頭も人当たりもよい、目に入れても痛くないほど大好な、天使のような自慢の弟だ。


 私達は早くに両親を亡くしていて。ずっと私がこの子の親代わりをしていたけれど、そんな八雲ももう大学生。今は遠くの町でアパートを借りながら、勉強に勤しんでいる。

 八雲も太陽には懐いているから、結婚の事を大いに喜んでくれた。


「年内には籍を入れるつもりよ。結婚って言っても、お金がかかるから式はあげないけどね」

『そっか。あ、でもと言うことは、二人は新婚さんになるわけだよね。だったら今度のお正月には、僕は帰らない方がいいかな?』

「へ?」


 聞こえてきた言葉に、フリーズした。

 そんな、八雲が帰ってこないなんて。ただでさえ弟欠乏症になりそうなのを、我慢してるっていうのに!


「ちょっと待ちなさい! 私は別に、そんなの気にしないから。太陽だってきっと」

『それでも、二人の時間は必要だよ。僕はこっちでバイトでもして過ごすから。たまには、そういう年があってもいいんじゃないの?』

「良くない! ああ、こんな事になるなんて盲点だったわ。八雲が帰ってこないなら、いっそ結婚の話は無かった事に……」

『姉さん!』


 叱るように叫ぶ八雲。そしてそんな私達の通話が聞こえたのか、太陽が顔を出してきた。


「さ、皐月さん。今何か、物凄く不吉な事が聞こえたんだけど」

「太陽、それが大変なの! 八雲ってば私達に気を使って、今度の休みは帰ってこないなんて言ってるのよ!」

「なるほど、だいたい状況は分かった。皐月さん、八雲の事が大好きすぎるからねえ」


 大好きすぎるって、人をブラコンみたいに。

 そりゃあ、大好きなのは確かだし、八雲の事を語れば一晩中話せるけど、これくらい普通でしょ?


 すると太陽は私からスマホを受け取って、テレビ電話にする。そして。


「八雲お願い。助けると思って帰ってきて! でないと、本気で婚約破棄されるから!」

『太陽さん、頭を上げてください! 分かりましたから!』


 スマホに向かって土下座する太陽を見て、八雲は考えを改めてくれるのだった。

 めでたしめでたし。





『……姉さん、いちおう聞くけど。僕と太陽さん、どっちが大事なの?』

「八雲……い、いや違う。エート、ドッチカナー」

『怒られると思って、慌てて意見変えたでしょ! もう、少しは太陽さんに優しくして!』


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