同棲中の吸血鬼くん その2 (現代ファンタジー)

『皐月さんの鈍感ぶりにはもうたくさんだよ。僕達、別れよう』

『えっ……ちょっ、ちょっと待ってよ、私のどこが鈍感だって言うの!?』

『全部だよ! もうついていけない、さようなら』

『ま、待ってよ太陽!』


 待って、行かないで。悪い所があったら直すし、血だって毎日あげるから!

 だけど伸ばした手は届かなくて。彼の背中は、徐々に遠ざかっていった。






「皐月さん……皐月さん」


 誰かの呼ぶ声でハッと目を覚すと、そこは自宅の寝室。そして横を見ると、なぜか出ていったはずの太陽がいた。


「皐月さん、大丈夫? だいぶうなされてたみたいだけど」


 心配そうな顔で私を見つめてくる。ひょっとして今のは、全部夢?

 よ、良かったー。


「平気、変な夢を見ただけだから。それよりも、どうして太陽が私の部屋にいるの?」

「えっ? それは……」


 気まずそうに視線を反らされる。

 私達は同棲しているとけど、普段の寝床は別々。健全なお付き合いをしているのだ。

 もしや良からぬ事をしようと、忍び込んできたとか……いや、それは無いか。太陽だし。


「……もう観念するよ。皐月さん、自分の指を見て」

「指? って、これは」


 目を向けた左手の薬指。そこにはつけた覚えのない指輪が、ピカピカと輝いていた。


「サプライズのつもりだったんだけど、つけたところで水城さんが、急にうなされ出して。……こんな形になっちゃったけど、これが僕の気持ちだから」


 祈るような目で、じっと私を見つめてくる。

 えーと、もしかして私、今プロポーズされてる?


 いったい誰に入れ知恵されたのか、ガラにもなくサプライズなんかして。けど、嬉しい。


「……こんな事しなくても、普通に言ってくれればOKしたのに」

「いや、普通に言うだけだと、皐月さんは気づいてくれない……って、え、OKなの!?」

「当たり前でしょ。……断るわけ、ないじゃない」


 少し……ううん、かなり照れ臭かったけど、素直に「ありがとう」と答える。

 すると太陽、幸せそうな顔をしながら。そっと顔を近づけてくる。


「ありがとう、凄く嬉しい」


 そう言って、首筋に吸い付いてきた。

 血を吸っているのではなく、印をつけているのだ。普段吸血する時よりもずっと優しく、唇を当てられる。


 もう、隠すの面倒なのに、こんな所に印なんてつけて。

 だけど嫌だとは思わない。思うはずがない。


「いつもの血の味より、ずっと甘くて美味しいや」

「……バカ」


 首にまだ残る感触にくすぐったさを感じながら、喜びと幸せを噛み締めた。




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