ハチミツ色の夏 (その他)

 8月の半ば。お外ではミンミンとセミさんが鳴いているけど、クーラーのきいたお家の中はとっても涼しくて、ワタシはソファーの上でスヤスヤ。

 だけど寝返りを打った拍子に、パッチリと目が覚めちゃった。


 ふぁ~あ。

 あくびをしながら、前足で頭をかく。


 みなさんこんにちは。

 ワタシの名前はメープル。ゴールデンレトリーバーの女の子です。


 ゴールデンレトリーバーと言っても、まだ小さな子供なんだけどね。

 あーあ、早く大きくなりたいなあ。お兄ちゃんみたいに。


「ふふふ、メープルちゃんは今のままでもかわいいよ」


 そう言ってくれたのが、同じゴールデンレトリーバーのハチミツお兄ちゃん。

 お兄ちゃんと言っても血は繋がってなくて、ワタシよりも先にこの家で飼われていたの。ワタシはそんな、大きくて優しいハチミツお兄ちゃんが大好き。


「メープル、ゴハンよー」


 あ、ご主人様がゴハンを持ってきた。ドッグフードが盛られたお皿がひとつ、床に置かれる。

 だけどご主人様、お兄ちゃんの分のゴハンが無いよ。


「お兄ちゃんも食べる?」

「いいんだいいんだ。メープルちゃんが全部お食べ」


 お兄ちゃんはそう言うけど、一緒に食べたいよ。だけどご主人様ってば、お兄ちゃんにはゴハンをくれないの。


 ゴハンだけじゃない。

「メープル、散歩に行こう」、「メープル、ボールで遊ぼうか」、「メープル、もう寝ましょう」。

 ご主人様はいつも、ワタシの事ばかり。これじゃあお兄ちゃんがかわいそう。


 だけどお兄ちゃんは、気にせず笑っている。


「大丈夫だよ。ご主人様は今でもちゃんと、ボクのことを大切に思ってくれてるから。ほら、あれを見てよ」


 鼻で指したのは、仏壇に飾られている写真。

 そこには今よりずーっと小さい頃のご主人様と、ハチミツお兄ちゃんが写っている。

 生きていた頃の、ハチミツお兄ちゃんが。


 ワタシがこの家にやって来たのは、ハチミツお兄ちゃんが亡くなった後。

 お兄ちゃん、今はお盆だから帰ってきてるけど、その姿はご主人様には見えないの。だけどね。


「姿は見えなくても、ご主人様は今でも毎日、ボクに手を合わせてくれてるんだ。とっても愛されてるよ」


 嬉しそうに笑うお兄ちゃん。

 お兄ちゃんがそう言うなら、きっとそうだよね。


 やがてお盆が終わると、ハチミツお兄ちゃんはナスビでできた牛さんに乗って、向こうに帰っていった。


 来年の夏も、また来てね。

 一緒にゴハンを食べることはできないけど、いっぱいいーっぱい遊ぼうね!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る