同棲中の吸血鬼くん その1 (現代ファンタジー)

「太陽。ほら、今日の分」

「うん……ありがとう、皐月さん」


 彼は差し出された私の手を掴んで、指先にそっと口を付ける。

 キスをしている? ううん、違う。指先を小さく噛んで、私の血を吸って吸っているのだ。。


 彼、基山太陽と、私、水城皐月は、どこにでもいるカレカノ。

 高校の時に出会って付き合いはじめて、お互い働くようになってから同棲を始めた私達。だけど一つだけ、普通とは少し違う事があった。

 それは彼、太陽が吸血鬼だということ。


 私は一日一度。毎晩寝る前に、こうして彼に血を吸わせている。


 昔理由あって、彼に私の血を吸わせた事があったのだけど、どうやらそれがいけなかったらしい。

 後で知った話だと、何でも私の血は吸血鬼を惹き付けてやまない、依存性の強い特別な血なのだと言う。


 定期的に私の血を吸わないと、まるで無理やり息を止めているのに等しい苦しみを味わう。そんな体質に、彼はなってしまったのだ。


 今日もいつものように、就寝前の儀式を行ったけど。血を吸い終わった後、彼はポツリと言う。


「ごめん、毎日こんな事して」


 またか。もう何度も繰り返してる行為だっていうのに、太陽は血を吸う度に、申し訳なさそうな顔になる。

 だけど、私は彼のそんな態度が不満だった。


「しょうがないでしょ。そうしないと、辛いのは太陽なんだから。遠慮はしないでって、いつも言ってるじゃない」

「でも……」

「それとも何? 血が吸えなくてもがいて苦しむのを、黙って見てろって言いたいの?」


 眉をつり上げて凄んでみせると、彼は言い返せずに小さくなる。

 まったく。私はそんな、Sっ気はないわよ。……好きでもない男に血を吸わせたりなんかしないって事、ちょっとは分かってよね。


 すると太陽は何かを決心したように、じっと私を見つめる。


「皐月さん。僕は皐月さんに、たくさん迷惑をかけてる。だけど、もう一つだけわがままを言わせて。お願いです……僕と、ケッコンしてぇくだしゃい!」


 よほど緊張していたのか、最後の方が噛み噛みだった。

 けど、大事な部分はちゃんと聞こえていた。ケッコン。ケッコンって……。


「何? 私の血のついたハンカチでも欲しいの?」

「……へ?」

「いや、だから『血痕けっこんください』、でしょ。確かにわざわざ血を吸わなくてもハンカチをしゃぶれば、吸血衝動は抑えられるかもしれないわね」


 なるほど、ナイスアイディア。

 納得していると、スマホが着信音を鳴らした。


「ごめん、仕事の電話だ。悪いけど、血痕の話しはまた後でね」

「ええーっ、ちょっと待ってよ! 僕がどれだけ勇気を出したと思ってるの!?」


 太陽はそう言ったけど。ごめん、仕事も大事なの。


 仕事モードに切り替えて電話する中、太陽は「皐月さんのバカー!」と、泣きそうな顔で叫ぶのだった。



 ※すみません。今回は千文字をオーバーしてしまいました。

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