同居人は猫又

 大学進学を機に、実家を離れて一人暮らしを始めた俺だったけど、最近同居人ができた。そいつは。


「浩平くん、おかわりが欲しいニャ」


 キャットフードをあっという間に平らげておかわりを要求してくるのは同居人……いや、同居猫のバニラ。こいつは人間の言葉を喋ることができる、猫又という妖怪だ。

 俺はまだ食べ始めたばかりだというのに、もうおかわりか。


「わかったわかった。けどおかわりは一回きりだぞ。太っちまうからな」

「ええー、ボクは太らない体質なのニャ」

「よく言うぜ。最初会った時よりも、明らかに丸くなってるくせに」

「気のせいだニャ。ところで浩平くん、キャットフードもいいけど、ボクもたまには、浩平くんが食べているソレを、食べてみたいニャ」

「ソレって、カレーのことか? ダメだ」


 食べかけだったカレーを遠ざけると、バニラは恨めしそうな目で見る。


「ええー、浩平くんのケチー」

「そうじゃなくて、カレーには玉ねぎが入ってるんだよ。玉ねぎは猫にとって、毒だからな」

「ボクは普通の猫じゃなくて猫又ニャ。きっと毒なんて平気だニャ」

「そうかもしれないけど、とにかくダメ」


 ちょっと可哀想だけど、用心はした方がいい。

 こうしてこの日の夕飯は、何事も無く過ぎていった……が!


「おいバニラ、どうした!?」


 翌朝起きてビックリした。

 バニラがぐったりと、倒れているじゃないか。


「大丈夫か? 何か拾い食いでもしたのか?」

「ハァ、ハァ。そ、そんな行儀の悪いことしてないニャ。ほんの少しカレーを頂いただけニャ」

「は? バカ、猫には毒だって言っただろうが!」

「あ、あれは本当のことだったのかニャ。てっきり食いしん坊の浩平くんが美味しいカレーを一人占めするために、嘘言ったんだと思ってたニャ」

「お前にだけは食いしん坊とか言われたくねーよ!」


 このバカ猫。元気だったらゲンコツでも食らわせてやるところだ。


「ああ、鍋いっぱいにあったのを、全部食いやがって。これじゃあ中毒か食い過ぎかわかんねーな。とにかく病院に……猫又って、動物病院でいいんだっけ?」

「ま、待つニャ」

「ん、どうした?」

「注射は嫌ニャー」

「いいから行くぞ!」


 こうして、嫌がるバニラを引っ張って動物病院に行ったのだが、幸い中毒を起こしたのではなく、ただの食い過ぎだった。

 なんて人騒がせなバカ猫だ。


「罰として三日間、ご飯のおかわりは無しだ!」

「そ、そんニャー(涙)」


 猫とその飼い主、食い過ぎと玉ねぎにはご注意を。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る