後後226 お色直し(猫)


扉が開いた。


静寂。

部屋に静寂が広がった。


ひたひたひたひたひた

アニャータの肉球の吸い付くような微(かす)かな音。大ホールの中に入ってくる。

斜め後ろから付いてくる侍女は足音を一切たてていない。


毛並みを目立たせるデザインのドレスの裾は少しひらつくが、柔らかな素材なので音をたてない。

全て真っ白。際立つのは宝石のような緑の目。

アニャータの本人はロシアンと言っているが、多分ノルウェー山猫の方だろう、双方が入っているのかも。それをこっちではロシアンと呼ぶのか?。

その毛足が長く、でもまとまっちゃいやすいふわふわの毛がきれいにブラッシングされ、一本一本が起立している。

難しいそれを長く持たせるために、この数日ガクは頑張ってきた。


ペルシャ猫の何倍も美しい毛並み。手入れさえうまくできれば、そうなのだ。そしてその手入れがとても難しいだけだ。

ホントの美人さんの本質を引き出すのは、難しいほどやりがいが出た。

獣人で、これ以上の美人はいないだろう。


俺は立ち上がり、アニャータの方に向かう。

アニャータはニコリと微笑み、、、

可愛い・・ここまでかわいかったっけ・・・。


思い切りモフりたいのを我慢し、その手をとり、、手をとったとき、どれほどその手をモフりたかったことかっつ!!!


アニャータの手をとり、前方の低い舞台の上に昇る。

中央で礼をし、

唖然としている楽団の指揮者と目を合わせ、頷く。

指揮者は我に返り、ワルツを奏でる。


俺はアニャータの手をとったまま壇上を降り、ホールの中央に出ていく。


アニャータに礼をして、踊り始める。

音は、楽団の演ずる楽器の、調和のとれた音。Fascnation。

俺の靴音、アニャータの足音はほぼしない。


衣擦れと、たまに少しの風を斬る音。


呆然とした全ての視線がアニャータに集まっているのがわかる。


俺の左手はアニャータのふわっとした、そう、綿菓子か、いやそれ以上だ、空に浮かぶ雲でも抱えるような抱き心地の体を支え、右手はその柔らかな肉球と、限りなくモフの手をつなぎ、アニャータを軽く引き回すくらいで踊り続ける。


1曲目が終わり、そのまま待つ。ほどなく2曲めが始まる。

あ、

美しき蒼きドナウだ。


ゆったりと、アニャータの美しさを見せつけ、そこから少し早く、でゆったり、徐々に早く、そのまま少し早めテンポの良い速度。切れ目がなくとても気持ちいい。


やっぱこっちは向こうのクラシックが多いんだなぁ。

指揮者も楽しく踊れるような演奏をしてくれている。


休めるゆっくりな所を入れてくれてるのがとてもいい曲でもある。


その次は、「春の声」だった。僕らにふさわしい曲と言える。


中学生の頃、俺がこれで結婚式で嫁さんと踊るなんて、とても想像もついていなかった。


アニャータの鼻のアタマに汗が見えてきた。なるべくゆっくり目にして、曲音終わり頃に指揮者と目を合わせ終わりを伝えた。指揮者はうまい。ダンスをしている者達にも目を配っている。


曲が終わり、俺達は周囲に軽く礼をした。


割れるような拍手!

これが割れるような拍手だとすぐにわかったほど!


アニャータと顔を合わせ、にっこり笑い、再度皆に礼をし、隅に行く。


アニャータを席に着かせ、飲み物を貰った。


「ああ楽しかった!」アニャータ

「うん、なんか自分じゃないようだった」俺

「私も!」


公爵が来た。

「どうだ?」俺に訊く。

「最高です、さすがですね!」

「そうだろう?」と誇らしげな公爵。


その後音楽が始まり、招待客達が踊り始めた。


農国王、将軍様、領主様が、順にアニャータと1曲ずつ踊った。

俺は公爵様と踊った。

泉さんは結構申し込まれていたが、踊れないからと断っていた。今日は食べるの専門にしたようだった。


あれ?と思い見回すと、、おっかさんとシューレは一緒に飲み食いしている。娘のアニエッラも泉さんと同じ方針のようだ。申し込まれるが、断っている様子。


最後に俺達が挨拶して先に退出した。

あとはお客さん達で気軽に続けてくださいということらしい。

お知り合いになりたい同士とか、いろいろそういうえらいさん達のアレがあるようだし。


控室に戻ると公爵と匕王夫妻が待っていた?


「ガクを待っていうちにこちらと知り合いになったぞ」匕王

やっかいな、、

「いや、ダイジョブだ。問題はない。」

どこのシュワルツネッガーだ?


「流石ドラゴン王だけあって、人格?が何回りも大きいな。こういう方々とどんどん懇意になるおまえと泉は一体何者だ?」公爵

「えー?知りませんよー、少なくとも俺はフツーの一般人ですよ?」

「おい、んじゃ俺がいけないってのか?」

いつの間にか泉さんが座って、テーブルの菓子とジュースを飲み食いしていた。


「さあ?でも俺より、泉さんの方がその気が強いんじゃないスカ?」

「そうかあ?お前だと思うけどなぁ」


「うむ、私もそう思う」公爵さま

「私もそう思うぞ?」匕王

「ほんに!」后

あんたは!


「そうお?」とアニャータを見る。

「・・・よくわかりません」

だよねー。



「さて、どうせ農国王やら将軍様達は、おえらいさん達と一緒に楽しくもない話でもしてるんだろうから、そういうのとは関係ない我々は・・・・・・・さて?」

「街にでも行きますか?おそいから飲み屋くらいだけど」俺

「いいな」匕王

「ほんに」

・・・・・・・・・・・


公爵と匕王が、俺たちが行くような店に行きたいというんで連れて行く。というか、通りまで匕王が皆を転位させてくれた。

「よし!ここだ!」

と一発で決めた泉さん。

「その心は?」

「旨い酒の匂いと、食い物もなかなか良さそうな匂いをさせてる」

そーですか、、すごいっすねその鼻


泉さんの鼻は高性能だった。

俺らは明け方まで飲み明かした。

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