第274話 後後149 家族ひきこもごもごもご


「おっかぁ、これどーすっかな?」

「ああ、どうだろね、直せたら使うかねぇ。あの子達が帰ってきたら訊こうかね」

「ああ、だなぁ、、」


ここはガクがこの世界に来て死にかけていた時に拾ってくれた夫婦の家。

なにやら、どっかに出ていた子供が帰って来るようだ。


この夫婦は、ガクを拾った当時、川のそばのさほど大きくもない畑を耕して暮らしていた。

今でこそこの周囲は皆田畑になっているが、当時は野っ原だった。水が引かれていないので開墾しても意味なかったのだ。

大工の熊たちが水車を作るようになり、水をこっちにも引けるようになって、灌漑されてはじめてこの周囲が開墾され、今では見事な畑や田んぼだ。


鶏も買い、どんどん増え、今では毎朝の卵は売るほどになっていた。

夫婦も歳を感じ始め、これだけ増えた田畑を見るのも2人だけではきつくなり、、都市部に仕事を探しに出ていった息子たちに手紙を出した。

何人かいる子供のうち、一人の息子が嫁と子供を連れて帰ると言ってくれた。


手紙には「もともと百姓だった俺には街はきつい」と。

長男だったその子は、うちの畑が少ないので先に出稼ぎに出てくれてたのだ。末の子が大きくなるまで毎年わずかながらも仕送りをくれていた。


「嫁が遠慮しないように、少し離れたところに家を建ててもらおうな」

「街道のそばなんかいんじゃないかい?商売だってできるしさ」

「そうだなぁ、孫が大きくなったら何したいかなんてまだわからんものなぁ、、いろいろできるようにしといてやりたいなぁ、」


家族のために頑張ってきてくれていた長男が帰ってくるのだ。嬉しいだろう。頼りがいがあるだろう。


この武国は武家の国なのに、嫁姑の問題とか、しきたりとかそういった問題の話は聞かない。

多分、本当の戦闘民族だからかもしれない。

考えないで戦えばすぐ死ぬ。瞬時の判断や短時の判断、長時間の判断、長期の判断、を同時にいろいろ進めていくのはアタリマエのこと。なので「昔から決まっているから」とかは理由にならない。なぜそうなのか?の理由が合理的判断で最も効果的でなければ許されない。生死に関わることが多い世界だから、それが癖になっている。頭を使うのが癖になっている。


なので年齢が上だから偉いとかない。その時時の経験によって、その場を仕切るものは決まるし、判断がうまくない者は皆ついていかないで他の良い判断をする者の指示を求めるようになる。

こいつがいい、と、皆がリーダーを作ってしまうのだ。押し付けるとも言うが。


だから無責任な言動をする者はまずいない。それは家族の間でも同じだ。甘えていい部分とそうでないところは、誰もが適正だと思うくらいにきちんとわけられている。


なので、長男一家が帰ってくることは喜びでこそあり、不安はない。


半分に割った竹から始まった水路。

それが、やっと、子どもたちと食っていくことができるほどの田畑を作り出す元になったのだ。


まぁ、そんなこととっくに忘れているだろう夫婦であった。


ーー


「らんばだ、って知ってる?」博子が福田に訊く。

「知ってますよ、私の時代では盛んでした」福田

・・・・かなりおっさんか、、

福田は博子はそれほど後の時代だとまでは思っていなかった。

実際は半世紀ほどあとか?(博子は平成っ子なので生まれ年では福田と半世紀近く差がある)


「あれ、ぶるどらまん、とかいう怪獣モノの漫画の音楽でしょ?」

え?そうだったっけ?いや、、ちがう、、、なんだろう?・・・・

「あ、それはわんだばだーでしょう、しかもまんがではなく実写版のうりとらまんシリーズのなんかですね。私はあまり見ていないので覚えていないですが」


ふーん、と博子は行ってしまった。


あ、またなんか姫(華子)に仕込んだな?しかも今回も間違えた記憶のそれを。と看破した福田。

もう、元がどーであろうと適当におもいっきり変形させられちゃ、元を知っていても意味なしである。

当然、博子は事実を知っても訂正なんぞしない。

なので福田はなるべく避けている、華子を。


案の定、翌日、手作りの怪獣のきぐるみを着せられた誰かが、なんかプレスリーみたいなカッコをしマイクを持った執事と戦う場面を演じさせられていた。誰が入っているのだろうか?

華子は頑張れ父上!とか叫んでいた。

博子はけらけら腹を抱えて笑っていた。


福田はその絵面を見た時、真の悪魔って、もしかしたらあーゆーのかもそれない、とふと思った。


ーー


東武領領主邸。

今日は領主様は大量の書類を見てどんどん捨ててっています。

全部見終わり、全部捨ててしまっていた結果を見て、


「はあ、、まったくどいつもこいつも、、、」

ガクのお見合い相手の書類である。

ガクの肩書は、このくにでは厳しい。

学者。いくら王宮付き学者といえども、学者だ。

「弱い」と思われて、見合い相手候補はろくでもないのばかりだ。


博子は王妃の手に渡ったからまだしも、

ガクと泉は自分の子として幸せにさせてやりたいと思っている。

領主様、奥さんと子供亡くしているからね。

迷える子達だったのが立派になって!という気持ちが強い。

まぁ、来た当初、ほんとに迷子同様だったからな。宛も皆無で。


「弱い者があれだけの旅をできるか!弱いものが西の国のあの征伐に最後までいられるか!東の大陸でも同じだ!全くこいつらはそれもわからんのかっ!!国の先々が不安すぎるわ!!」

憤懣やるせない領主様


側用人もいるが、そのときはガクより少し年下の書生が、

「領主様、あの、、以前ガクさんから聞いたんですけど、、」と、

ガクの世界では男は30歳くらいで結婚するのが一般的だと。なのでそのくらいになったら考えうるかもしれないかなあ?と言っていたこと、を話した。


「まだ先か、、、儂が引退するまえには決めたいなぁ、、」領主様

ただ、ほとんど成長しない泉さんについては「どーしたもんだろ?様子見しかないよなあ?」

と思っている。

しかもお年頃になっても、中身がおっさんだから男と結婚とか無理だろうし、、、かといっても、、、だ。


あたまが痛い子たちの親代わりの領主様だった。

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