第262話 後後137 前だ
王宮には”まえだ”という職種がある。
いつ誰によって決まったかは誰も知らない。
ただ、その職の者は、華子専属になると決まっている。
その職に着けるのは1名のみ。なので、皆彼をまえだと呼ぶ。彼の本名なのか、それともちがうのか、は、誰も知らない。知る気もない。
前田は姫様がおむつを付けている頃から世話をしてるので、姫を”華子様”と呼ぶ(他の者、親しい者は姫、他は殿下とか呼ぶ)。将軍様も華子もそれがあたりまえになっているので、誰も何も言わない、言えない。言うと、「あ?儂が容認しているのに、お前が許さぬだと?何様?国王の上司なの?」と将軍さまに言われちゃうからだ。
どっかの世界のほぼ実権を完全に盗まれた皇帝とか王とかと違うのだ。
単独での強さもすげーのに、信頼厚い部下たち(東武領小館隊、いずみ隊)だけでも、この国の他の全部をあわせても余裕で潰せる。ぶっちゃけドラゴニアの王連中除けば敵は居ないくらい。
でもまえだはそういうのを超越していた。「華子様だけ幸せであれば良い。」がデフォ。たまにそこに「おもしろい」が加わるのがたまにきず。なので常に粘着力の強いほうのガムテープを持っている。
もちもちの木の花を原料に作ったそのガムテーぷwは、一度舐めたらその舌が一生取れないくらい危険なものだ。
博子が華子の警備兼学友として来る迄は、いつも華子の側というか後ろに控えていたのはまえだだった。
なので、ぽっと出で現れ、まえだの場所を取った博子がにくたらしい!きーっつ!!と思うことも少なくなく毎日。
この間華子が外出した後、急に大雨が降り、まえだがいそいそと傘を持ってお迎えに出たら、、博子が大剣を頭上でブンブン高速回転させて雨よけにしていた。それをきゃっきゃ楽しむ華子。黙って傘を差し出し、泣きながら走って邸に帰ったまえだ。
華子には執事がいる。年寄りのベテランだ。なのでまえだは執事ではない。
前田には執事の仕事は少しむつかしすぎたのだろう。華子が少し大きくなった時そういう話も出たが、なれなかったみたいだ。その後それに言及する者はいなかった。
もう、まえだはまえだでいいんだ。ということらしい。
姫の初陣のとき、わたしが轡をとらないでだれかっつ!!!と、床に転がりまくってだだこねたようだ。
でもあっさり却下されたと。「おまえには危険すぎる」と。
そう、まえだは一般的な戦闘能力は、無い。ただ、最終奥義とかなんかあるらしいけど。それのみ。それも制御しきれていないとかどーとか。
「まえださん、いつも目線してますけど、、どういった意味があるんですか?」博子
「ああ、これは、、ちょさくけん?」まえだ
???どこの犬?よさくの飼ってる犬とか?なのかな?
現代人なのだが博子、もう全て忘れ去ってるのかな?
”華子”はよくある名前なので大丈夫!!
何が?
じじぃは墓の下なのでダイジョブ!! 何が?
今日もまえだはガンバッている。(使い走り以外の仕事内容を知る者は居ない。)
ーー
華子の母方のじーさんばーさんはまだ生きている。
博子を小館から引っ張ってきた娘を育てただけ在り、武力第一一家である。もちろん脳筋ではない。思慮も知能もある。
なので、華子が博子を連れて王都の隣の領にある母の実家に帰ると、大喜びだ。
そこの領は母の弟が領主を継いでいる。温厚で思慮深い弟なので華子も好きな叔父さんだ。しかも剣がカッコイイ。
数人相手に、すぱぱぱーーん!と、流れるように倒すのがカッコイイ!武国風イケメンだし。
なので華子の弟達もそういう風になれるんだろうけど、、あまり剣技に力を入れていない。もったいない。
そういった意味では、もし華子が泉の活躍を見てしまったら、、ガクにとっては悲惨なことになるかもしれない。
と言っても、自由な泉がひとところに縛られることをよしとすることはないだろうけど。
趣味が致命的に違うからね、ケーキ以外。乙女じゃないし。
華子の母の実家の近くにも森(領都の森)が在り、鍛錬にちょうどよい獲物が多い森だ。
が、前回博子が入り、それから半年は何も取れなくなったので、そこは戦々恐々なじいさま達。
ドラゴンくらい居ればいいのに、と最近は思っている。
東武領にドランゴんが出ると聞いたときは羨ましくてたまらなかった。と言っても、博子以外にドラなんか倒せそうな者いないけど。もちろん華子の叔父(領主)もムリだ。この領には小館隊はいない。
この程度が武国の一般的な領なのだ。今の東武領がかなり外れているだけ。
最初は、おっさん喋りの幼女なだけだった泉。最初は臭く汚く、しかもなんかこわそーな狼の集団なだけだった人狼達。
なにがどーなってかは話が長くなるから覚えていないが(第12話〜)、結局今は国の最大戦力。
さいしょはよくわからんかった者達が、今は東武領どころか武国の宝つーわけだ。
ツイてるね! ではなく、問題ごと(面倒事)を引き取る領主な東の人徳だろ?
そこまで見てとってる者は少ない。
ちなみに博子も最初は東(東武領領主)が引き取った。で強くなったんで、后の目に止まり今ココ。
「華ちゃんや、、じいちゃんとひとつ手合わせしようか?」じじい(前領主)
「えー、私まだ強くないんで、おじいちゃんは博子とやってよ。私見てみたい!」きらきらした目でじいさんを見る華子。
逃げられない、、、
道場に行く。
じいさんは目で博子に、「ここは年寄りに譲ってくれ!」と懇願!
博子は、ああ、このじいさんやる気満々だな!よし、少しは本気出してあげるのが礼儀でしょう!と。
お約束である。
完全翻弄。
なんか、傍から見ていると、じいさんおたおたしているだけに見える。
で、勝手に疲れてへばっただけに見える。
実際は全く違うんだけどねっ!!
なーんか情けなく見えたじいさん、んじゃ私が、、と、ヒャ水なばーさん。
「では、次はわたくしが、、」と薙刀を持ち出してくる。
「ちょうど体があったまったから、、」博子、悪気はないのだ。
じじぃ泣き出す。
薙刀を相手にすることは多くはなかった博子。最近は華子相手にしていただけだ。このばばぁ、技量が華子よりも数段上に見える。
少し用心し、じっくり見る博子。と、ばぁさんがすすすすすーーーっといつの間にか出てきている。
へぇ!おもしろい!と、博子も真似してみた。
??!!!、いつの間にか間合いがものすごくなくなっていてびっくり仰天のばさま、、
ぷぎゃっ!!といいながら下段から右上に薙ぐばさま。だが、腰がまったくはいってなかったんでw
刃を蹴られて、、ぶーーん、、と、、、それを持つばさまも一緒に、、、
「「「あ・・・」」」
ーー
「いやいや、これなら、華ちゃんも安全で安心だ。これほどの用心棒に勝てる相手などまずいないだろう」じさま
「・・ほんに、、」包帯だらけのばさま。
「自慢の学友兼護衛兼側付きです」華子
「おそまつさまです」博子
なんかちがうけど皆わかってるからおk。
でも、、、少しは「晴らしたい」じさまとばさま、、
「明日、息子が貴方と手合わせしたいと、、」
「え?領主様が、ですか?」博子
「そうよ、大丈夫?」華子
「まぁ、私はいいですけどー、、(ひそひそ、、いいの?領主様をのしても?)」
(うーん、、かっこいいおじさまの負けはあまり見たくないけど、それよりも博子の負けをもっと見たくないんで、いいわ、おもいっきりやっちゃって!)
デジタル回路?0か1のみか?、
このような場合、メンツを考慮してあげて接戦で終わらせるとかいう世界もあるが、ここは武国。実力者相手に手を抜くのはよろしくないのだ。
その晩、食事は華子が好きなものが並んだデッカいテーブル。博子と同年代なので、結構食べる。何は別腹かには別腹カテとかあるようで、、、
この領は王都に接しているので、食事もうまい。カレーなどももう入ってきている。ケーキも本場の農国タイプのもの。
紅茶もちゃんとしている。
おいしいおいしいと連発の華子を見て、やっと回復できてるなーと感じるじさまとばさま。
んなこと考えないで、最初から孫の喜ぶことや幸せだけ考えてりゃ余計なことしないのに。
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