第61話 中−27 ケーキと酒、どちが太るのか?


自家製ケーキの街。しかも真似はしない。更に王都に次ぐ都市。古都だからか王都よりもでかい。

そんな街で、

すべてのケーキを一つづつでも食べてみようと思ったら、どれだけになるのだろうか?


更に、各店、新作を出す。一店1つ増えても、この街の店の数だけ増えるのだ。

一生いても食べきれるだろうか?


更にもひとつ言うと、「ケチ臭くない!!」、一口で食えちゃうようなケチくせー小さいものをケーキと呼ぶような詐欺師は居ない。少なくとも、フォークかナイフで幾つかに切り分けて食べなければ食べられない大きさはある、最低でも。


また、ホールケーキでしか売っていないものもある、、それに挑戦しようとした泉さんを押しとどめた。


まるで火が付いたようだ。

漂流から武国、酒と肴の日々、、、甘いものは和菓子系のみで、泉さん本体には馴染みのないもの。

で、元の魂を失ってから初めての、本体にとっては多分久々の覚えのあるスイーツ。

おかしくなるもの仕方がない、と思って、今日までやってきが、、


「いーかげんにしてください。なんですかこの顎!鏡見てください!!ちょっとごめん、」

とシャツをまくり上げ脇腹をぐっと掴む。

「なんですかこの余分な肉!!つーか、脂身!!」


泉さんを武官の邸まで連れて行く。

「武官殿、きゅうで申し訳ありませんが、この泉に少し稽古を付けてやってくださいっ!!」

俺の勢いに飲まれ、お、おう、と言いながら側用人に木刀を2本もってこさせて庭に出た。


「はい」

泉さんに渡す。

握ると、顔が変わった。デブになってもまだちゃんと覚えているようだ。


「参る!!」

泉さんがはしった、、?はしった?、、ふつうに走ってる?おっせー、、いつもの風並はどこにとんでったの?

カンカンカン!!!ガン!!くるくるくるーーーカーン、、、からからからん、、、

泉さんの木刀だ。

あれ?あれれぇ?みたいに頭を傾けている泉さん。

「体重いでしょ?力でないでしょ?すぐ疲れるでしょ?でぶったからですよっ!!!!」俺


「んじゃ君、、」

と、木刀を拾って俺に渡す武官殿。

え”?

構えさせられた、、睨むんだもん、、え、ってったくらいで、、、


すた、た、たたたたたーひゅん!かんひゅんひゅんかんかんかんかんかんがっぐぐぐぐううう、ザン!!

つえー、、、何この人?ああ、武官だったわw

「若いのに、なかなかやるのう、、」

「ええ、国じゃ、下の下だったのに、、」

「ほう、どこだったっけ?」

「東武領です」

「・・・・・・・・・・」

「??」

武官は木刀の切っ先を下げた。中止らしい、たすかったぁーー、、


「そうか、、東武じゃ仕方がないのう、、」

「え?そうなんですか?」

「・・・なんじゃ、知らんのか?」

「はい、、国を出たことはあまりなく、王都に何度か行っているくらいなだけで、、」

「そうか、、、あのな、わしらの武国のどこの領主も、東部領を目指していると言うか目の敵にしていると言うか、、叩き潰したいってのが夢なんじゃ。」

はぁ、、ろくでもないこって、、、


「それくらい強者を排出するバケモン領なんじゃよ、あの将軍の親友なだけある。皆認めているんじゃ。」

「でも、一介の領民にそれを押し付けられても、、」

「いーや?お前、今立ち会ってどう思った?あれ、わしの本気に近かったぞ?」

「敵いませんでしたね、あのまま続けてたらどんどん追い込まれていったでしょう」

「ほれ、そのくらい読めるだろ?一介の領民と自称する者が、そのくらいできるのが東部領の奴らだ!こにくらしい!」

・・・・・・・

「でも、このじょうちゃ、、んんっ、泉殿は、、なんか、、聞いていた話と少し違う感じが、、、」

「ああ、この街のケーキがうますぎるんでハマっちゃって、ここんとこずっと毎日食事すらせずにケーキのみで生きているんですよ」


「・・・・・・終わったな、、、あのノブタタ殿が自慢する泉殿、おわりもうした!!!あーはっはっは!!剣に負けず、ケーキに負けたとは!!大笑いじゃ!!あーはっはっは!!」

がっくり膝と手を地面につけてOTZ状態の泉さん


ま、俺も、多分泉さんも、この武官さんの泉さんを奮起させようという気持ちはわかったけどね。


礼を言い、辞して宿に戻ると、泉さんは飯をちゃんと食い、風呂に入って早めに寝た。


翌朝、俺が起きたらいなかった。

窓から中庭を見ると、鞘に入れた剣を振っていた。着物がびっしょになので、長い時間振っていたか、走ってきてから振っているか、だろう。



それから泉さんは一日のかなりを、鍛錬につぎ込んでいた。

翌週

「たのもう!!」武官邸である。

出てきた武官さんに

「再戦をお願いしたい!」


で、庭。



2人が構えてから結構時間が過ぎている、二人の額から汗がたらり、と時折垂れる。

今、この街プスコは、もう夏も終わりの時期だ、暑くなど無い。


街の喧騒も聞こえなくなっているくらいに緊張した空間。


武官が先に!こらえきれなかったのか!

ガン!!

カラン、、


木刀を落としたのは武官。


「見事だ、、流石おとに聞こえた泉殿。」


「いや、奮起させていただいたおかげです。感謝します。」



「さて、ガク、今がチャンスだぞ?武官殿は手がしびれている今なら持ちこたえられないかもしれんぞ?」

「あっ!!泉殿、それはずるいでござる!!!」思わず普通の言葉になる武官


で、

そのまま武官は仕事をさぼって、泉さんと酒屋に飲みに行ってしまった。


酒とケーキ、どっちが太るんだろう?

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