第七章 3

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 白井は、休暇を取って、琉球共和国に向かった。

 これといった、何かをしようということではなかった。

独立後の琉球共和国を、自分の目で見たかったのであった。

 白井の眼に映じた、琉球共和国は、すっかり、インフラが整備されていて、観光地としては、世界でも一流で通用する、見事なものになっていた。

 米軍基地の跡地には住宅が、綺麗に整備されて建っていた。

高層のマンション群にもなっていた。

さらに空いた土地は、緑地なっていた。

 高速道路は、無料であった。田園と森と、整備された、高層マンションが建ち並んでいた。

 ホテルは、ビーチの近くにならんでいた。

ゴミ一つ落ちていなかった。

 乗ったタクシーの運転手に、独立後のことを聞いてみた。

「それは、圧倒的に、独立後の方が、暮らしやすいですよ。役人は三分の一以下に減り、小さな政府になって、税金は、なんと無料ですよ。琉球には、失業者はいません。国民が、すべて、落ち着いて生活していますよ。米軍基地もなくなりましたしね。地獄が極楽になったみたいです。町だって、ご覧通り、綺麗になりました。治安も格段によくなりました。最高の国ですよ」

 と自慢そうに言った。

「土台、大統領自体が、ごく普通のマンションに住んでいます。誰も贅沢なんか望んでいません。いまの生活がずっと続いて欲しいと望んでいるだけです」

 と運転手が、言葉を続けた。

 正直そうな、運転手であった。

(嘘ではないな・・・)

 と白井は思った。

「この島に、一人で遊びに来るなんて、勿体ないですよ。奥さんか、恋人と来たほうが、とても楽しいですよ。言論の自由も、表現の自由もあります。政府を批判するのも自由ですよ。しかし、今の政府を批判するものなんて誰もいません。税金のただの国以上のことなんて、これ以上のことはありませんからね。病院だって、保険が利きます。保険料を払うのは仕方のないことです。義務ですよ。それ以外は、国営の色々な事業で、稼いでくれて、それで、税金が無料なんです」

 そう説明する運転手に、白井は、

「琉球には、Rグループという企業があるの?・・・」

 と聞いた。

「聞いたことはないですね。企業も団体も、軍隊にもありませんよ」

 と運転手が答えた。

(渡部さんの推理も外れたか・・・)

 と白井が思ったときに、運転手が、

「海賊に、そういう組織があるということは、聞いたことが、なくはないなあ・・・しかし、そんな海賊にあったことがあるという者も、いないなあ。海は安全だよ。軍隊もいるしね・・・東南アジアかどこかの組織じゃないのかな・・・」

 といった。

「海賊かあ・・・いまどき、はやらないよなあ・・・」

 と白井もいった。

「その通りですよ。真面目に働くのが、一番です」

「琉球は、徴兵制があるんだろ」

「ありますけど。戦争なんでありませんよ。だから、逆に、社会教育の訓練くらいにしか思っていませよ。現代では、戦争が強いなんで自慢にもなりません。世界から、嫌われるだけです。かつての中国のようにね。亡国の思想です。まして、他国を侵略なんてしようものなら、国を滅ぼすもとです。あくまでも、他国に侵略されないための防衛力です」

ときちんといた意見を持っていた。

「いまは、一国だけが豊かになるのではなく世界中がみんなで、豊かになっていこうという発想の方が大切です」

 という答えが返ってきた。

「教育も学ぶ気ならば、大学まで無料ですよ。一人でも、有能な人材が育つのか、国の宝でするから」

 と運転手が、高い見識で言った。

 タクシーの走り方は、早すぎもせず、遅くもなく、落ち着いた、走行で、道路も快適であった。

自動車は、日本製であった。

 高速道路から見る、海の眺めは、ハワイとは、また、一味異なった、美しい南国の眺めであった。

「こんな美しい島を、戦争で、破壊してよい権利など、誰にもないな」

 と白井は、感嘆するように呟いた。

「その通りですよ。お客さん」

 運転手が、大きく頷いて、誇らしげに答えた。

 ホテルは、山南の玉城(たまぐすく)の近くの入り江に建っていた。周囲の景色の中に溶け込む感じの建物で、壁の白漆喰の色が、一際映えていた。

琉球国立第一ホテルとの言う名のホテルであった。

「国立ということ、国で経営しているの?」

 という白井の問いに、運転手が、

「はい。国立は、十軒ありますが、民間となにも変わらないですよ。ホテルが十軒あれば、それだけ、働く人の数も増えます。失業者を出さないための事業です」

 と答えた。

「なるほど。きめの細かい政策をしているんですね」

「観光大学があって、ホテルマンは、英語、中国語、韓国語、日本語きちんと喋れます。大学で、教育されているのですから、当然です」

 ということであった。

「ますます、きめの細かい制度ですね」

 と白井は、感心した。

 事実、ホテルのサービスは徹底していた。

 キャッシュカード類は、世界中の殆どのものが使用出来るようになっていた。

 フロントでは、ヘルスケアーを受けるがどうかも、聞かれた。

「人間ドックがご要望でしたら、ビザーブをお取りいたしますが」

「いや、私は、単なる観光だけで結構なんだが」

 と白井は答えた。

(これは、日本の観光ホテルは、到底、足元にも、及ばないな)

 と言う感想を抱いた。

 建国間もない、若い国が、真剣に自分の役目を、誠心誠意で、勤めている、という思いが、確かに伝わってきて、白井は、独特の心地よさ感じていた。

 客室に案内されて、落ち着いてみると、

「早晩、琉球は、観光産業で、抜きんでた存在になるな」

 と呟いた。

 部屋にあった、観光案内のパンフには、国際基準の会議場や、コンベンション、イベント会場、競技場等々がしるされてあった。

 いつでも、G20クラスの会議が出来るように、用意されてあったのである。

 国立博物館、美術館、図書館が、用意されてあった。

他に、琉球の民族博物館もあったし、仏教寺院、神社、キリスト教の教会、イ

ルラム教のモスクなどが、本格的な建物といて建っていて、いつでも礼拝出来るように、なってもいた。

 ホテルや、ビーチには、託児施設が、用意されてあった。

公共施設はすべて、バリアフリーの造りになっていた。

ホテルも例外ではなかった。

レンタカーや、自転車が、貸し出しように用意されていた。

 室内のテレビは各国の番組が、多チャンネルで、楽しめるようになっていた。

 これだけの公共投資をしているということは、琉球は、明らかに観光立国を考えているのだなということを、観光には、門外漢の白井にも、十分に理解できた。

また、琉球の風土には、そうした観光資源が十分にあった。

 何よりも、空と海の美しさがあった。

 さらに、タクシーもそうで、あったが、クルマが、すべて、電気自動車なのであった。

環境に、徹底的に気を配っていた。

琉球には、いまや、煙突が一本もないというのであった。

ゴミの焼却も、分別してミサイクルを徹底させて、完全燃焼させてしまう、第三次燃焼室までもった設備であった。

燃えたカスは、船で、離れ島に運び、支障のない形で、埋め立てを行っているとのことであった。

電気は、海南島にある、原発から、海底電線送電されていたし、各マンションや、建物の屋上は、ソーラーシステムが、義務付けられて、完備していた。

見事なまでの、無公害国になっていたのである。

「これだけの、行政を行ってきたのは?」

 ランチを摂りながら、ウエイターに、聞くと、

「はい。大統領と、行政機関が、必死で取り組んできました。しかも、無税です。その資金は、国営の諸々の事業による、利益です。東シナ海の、天然ガス田や、油井の販売利益と、レアアースの販売の利益などがありますから。何とかやっていけたのだと思います。日本や、韓国が良いお得意様です」

 と答えた。言いよどむ風もなかった。

「毎日、国会や、閣議の模様は、テレビ中継されていますから、お客様もお部屋のテレビでご覧になれますよ」

 と言い添えた。

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