第七章 2

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 中国という国は、世紀単位で、基礎的な政権交代の起こる国である。

 現政権は誕生後六十余年という、若い国である。

 しかし、中国こそが、世界の思想の、中心である、という考え方を、決して捨てない国であった。

そのことを知らなくてはならない。

中国のそうした、中華思想こそが、世界の中心であるという考え方が、これまでの中国の、ドラスチックな、政権転覆の、根本であるということを、一番承知しないでいるのが、皮肉にも中国自身で、ごく普通に覇権的な行動を、取ってしまうのであった。

 それが、中国の常識なのであって、他国を侵略することの罪悪は、殆どないのであった。

逆に侵略されてもいる。

長い歴史のながで、他国を攻めたり、攻められたりが、中国のDNAの中に入っているのである。

 そのことを他から、指摘されても、痛痒を覚えることなく、ヒステリックに、逆に指摘された相手を攻撃する性質を持っているのである。

 経済的にも、不当に安い人民元を、欧米や、東アジア共和国から指摘されても、改善することはない。

ボクシングではないが、KOされるまでは、自己改革はしない国なのであった。

 R1号は、そうした、中国の体質を、熟知した上で、中国を一気に四方から、攻撃して、武力で決着をつけたのである。

 必要のない武力を、相手に見せつける気はなかった。

ただ、世界の中では、武力のない交渉というのは、まったく威力も、効果もな

いということも事実であった。

 軍備というのは、気が遠くなるほど、資金の掛かるものである。

それも確かなことであった。

 そのために、Rグループは、多年にわたって、危険な仕事を引き受けてきた。

多くは、武器商人とのコンタクトから、仕事を得てきていた。

 紛争が起これば、武器・兵器は、確実に売れて行くのであった。

 平和では、武器も、兵器も売れない。

武器商人としては、なにが何でも、紛争を惹起して、武器や、兵器が売れるようにしなくでは、ならないのであった。

 R3号は、両国に当たる前に、武器商人に当たっていた。

 一番情報を多く握っているのは、武器商人なのであった。

「無理だな」

 と武器商人が言った。

「米国で、軍需産業で、飯を食っているのが何万人にいると思っているのかね。

 アフガンだって、ゲリラで生活しているのが、何万人いると思っているのかね。どちらも、戦争が生活の手段なのだ。 それを、止めろというからには、戦争以上に儲かる、生活の手段を保障してやらなくてらならない。そんなこと出来るかね。

 米国の軍需産業だけでも、膨大な予算だ」

「それを、見返りといて提供することは出来ない。無理だな」

 R3号が言った。

「すでに、ロシアも、中国も崩壊した。世界は、欧米と琉球連邦と、アメリカ以外には、大国と言われる国はない。 他は小競り合いのテロとの戦いだ。これは、なくならないよ。民族と宗教の問題だからな。 アメリカにも、イギリス、フランスにも、さまざまな宗教を信じている者はいる。これを、撲滅するなどというのは、狂気の沙汰だ。植民地時代のつけだな。融合していく他はない。その過程で、紛争が起こる。 また、一世紀もしたら、ロシアも、中国も力もを盛り返してくるだろうよ。それが、地球の摂理だ。それを繰り返している」

「そう割り切った方が、気が楽になるな」

「したがって、武器が、大量に売れるような、時代は、当分ない。アメリカの戦争は、失業対策だ。放って置いた方が利口だろうな」

 と武器商人は言って、あとは黙った。


         *


 R3号は、結果の報告に、R1号のいる空母の司令室に行った。

 報告を聞き終えると、R1号は、無言で大きく頷いた。

そして、

「俺の意見も同じだ。世界の風に逆らっても、無駄なことだろう。時代は、武力の時代から、経済的の時代に移行している。 マーケットが世界を大きく支配していく時

代になったのだ。 R3号よ。俺はそれほど利口だとも、思っていないが、莫迦でもない。マーケットにそれなりの、会社を造ってある。為替・証券・先物相場で、そこそこの利益があげられるようになった。今後は、ここが、世界を動かしていくだろう。 ドル、ユーロ、アジアン=ドルを、コントロールして、増やしていくことだな。それと、産業の生産拠点を増やしていくことだ。琉球共和国の本島は、いかにも、領土が狭い。 生産基地を海外に増やしていくことは、必須だ。これが、今後の戦場になっていく」

「R1号の仰る通りだと思います」

「だからといって、武力のない国はなめされる。武力は保険ということだ。この保険は、錆らせたら、敵になめされるぞ。常に稼働出来るようにして置かなくてはならない」

「はい。肝に銘じて置きます。経済と外交のバックボーンに軍事力が必要だということですね」

「む。それの、バランスのよい国が生き残っていく」

 R1号は、座った姿勢を、少しも崩すことなく、冷静に言った。

 R3号が、自分の見解を述べた。

「琉球共和国は、観光資源に恵まれています。そこを、工場などで汚しては、元も子もなくなります。 目下、海南島と、遼東半島、山東半島の沿岸部に、生産拠点を建設して、稼働を開始しているところもあります。日本の企業以外にも、欧米の企業も、進出してきています。琉球共和国のプロパーも、育てていきたいと候補を選定しています」

「琉球共和国の企業は、どうしても、日本のコピーになっていくだろう。欧米の良い面も取っていかなくではならない。今どき産業スパイもないが、情報を持っているところが、勝つ。知的特殊部隊を、至急構成することだな」

「はい。理工科系に強い者を集めて、編成しています」

「日本から、技術者を引き抜くことだ。 インドにも、産業拠点は必要だ。アフリカ

が近い。今後は、バイク、家電商品、ケータイは、アフリカが市場になる」

「資材の廉価安定供給と、人材の安定供給で、商品の良質廉価化を、目指します」

「はじめは、大衆廉価消費材を目指すが、将来的には、オリジナリティーのある商品を、開発したいものだな」

「はい。研究部門にも、力を入れていきます。この小さな琉球の小島が、世界の列強と肩を並べていくためには、知的生産が不可欠です。それを、大事にしていかなくては、琉球は、成り立っていきません」

「その通りだな。我々、Rグループは、絶対に表には出ない。しかし、裏経済は、我々が握っているのだ。Rグループが倒れるときは、琉球の倒れるときだ。俺は、そう思っている」

「はい。一層の努力を、部下たちに厳命していきます」

「琉球は同じ観光地でも、観光しながら、健康を提供していくと言うコンセプトで、医療機関を充実させていくことを考えはどうか」

「なるほど。設備と同時に、医師の育成と、他国からの導入を考えていきたいと思います。育成の間は、導入に頼ることになろうかと思います」

「そうだな。思いきりよく報酬を払って、一流の医師をスカウトすることだ」

「はい。そうします」

 Rグループの行動は早かった。

 次々と手が打たれていった。

 東京にある研究所を、丸々買収していった。

医学部のある大学を、付属病院ごと買い取っていった。

 製薬会社も数社、買い取っていった。

製薬会社の研究所を、思い切って設備の拡充を図っていった。

 日本の厚労省の許可を取るのに時間が掛かるのは、判っていたので、琉球共和国で許可を出し、世界特許を取得していった。

それは、矢継ぎ早な行動であった。

 医大で、医師免許を取ったものは、琉球の病院で、実地で鍛え上げていった。

 琉球の医療は見る間に充実していった。

 観光をしながら健康をチェックしていくツアーが、当然になっていった。

それは、一大産業に生育していった。

病院には、必ずヘリポートを設置した。

医療ヘリであった。

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