第六章 5

R1号は、相変わらず、空母の司令室を、住居にしていた。

 滅多なことでは空母の外にはでなかった。

 空母の中だけを歩くだけでも、かなりの運動量になった。

(俺という男は本当に、無趣味だな)

 と自分でも、判っていた。

 司令室には、沢山のモニターがついていた。

すでに、夜間になっていた。空母の周囲には、多くのライトが点いていた。

 そのライトの中に、ダイビングスーツの男たちが、数人照らし出されていた。

「緊急指令だ。ダイビングの特殊攻撃部隊だ。B4のエリアだ。至急応戦の部隊を向かわせろ。1人以上は、拿捕しろ」

 その場にいた、幹部たちに、命令をした。

 特殊攻撃部隊は、まだ、空母に乗船していなかった。

 幹部たちが、モニターを確認して、現場に急行した。走りながら、メットについているマイクで、指令を出していた。

 司令室に残った、幹部たちに、R1号が、さらなる指令を出した。

「サーチライトで、空母のすべてを照らし出せ。高射砲の用意。ヘリが、支援にくるはずだ。応戦しろ。他の艦船にも、警戒臨戦体制を命令しろ。艦隊すべてで対応しろ」

「はい」

 幹部の1人が、マイクを、鷲掴みにして、艦隊のすべてに指令を発した。

 Rグループの動きは迅速であった。

B4エリアでは、上船してくる敵をアサルト・マシンガンを構えて待機した。

それと同時に、スターン(船尾)から、三隻のゴムボートが、B4エリア地点に発進していった。

全員、ダイビングスーツを着用していた。

「爆発物を船体に貼り付けているはずだ。発見して除去しろ」

 R1号が的確な指令を出した。

 一隻のゴムボートから、数人のダイバーが、海中に飛び込んだ。

 他のゴムボートと、敵が、撃ち合いになった。

空母の上からも、敵を迎撃していた。

 ダイビングしていた、グループが、船体に貼り付けた爆発物を発見して、それを除去した。

発火装置を外して、ポシェットの中に仕舞った。

 他の者は、水中銃で、敵を倒していた。

 侵入を企図した敵は、Rグループの迅速な対応に、ギブ・アップした。

 素早く手錠を掛けて、捕虜にした。

 さらに、敵の姿がないかを、ダイバーたちが、巡回をしていった。

他の部隊を、出動させて、空母の周囲を巡回していった。

 艦隊すべてが、巡回して、爆発物などを、探索していった。

 やがて、R1号が言ったように、ヘリが飛来してきた。

これを、速射高射砲で、撃ち落とした。

 捕らえた捕虜は、三人であった。

うち、二たりが、負傷していた。

 船倉に、放り込んで、尋問を、開始した。


        *


 捕虜を尋問した結果、彼らは、旧中国の残党であった。

基地を訊きだしたところ、河南省の州都である、鄭州に亡命的な軍を持って

いるとのことであった。

 R1号は、「時を移さずに、鄭州の基地を攻撃せよ」

 と命令した。

 R5号の一個大隊が、ヘリで、鄭州に向かった。

特殊部隊であった。

基地の所在は、先に、偵察隊が飛んで情報を、確認していた。

 十数機のヘリが、攻撃に参加した。都市ゲリラであったが、Rグループは、そうしたことに慣れていた。

それこそが、Rグループの本領だったのである。

 いきなり、基地内にラペリングして、敵の基地を、急襲した。

ヘリの上から、レーダーステーション・ミサイルや、スパローAAAを空中から敵の基地内に撃ちこんだ。

 十数機で、基地の建物を爆破していった。

さらに、ガトリング銃で、基地を掃射していった。

 その間に特殊部隊は、降下していた。

 鄭州は、黄河に沿った町である。

州都であった。

 Rグループは、巡洋艦、駆逐艦で、黄河を上流に向けて、逆登っていった。

 巡洋艦や、駆逐艦から、高速ゴムボートが、下ろされていった。

 ボムボートには、十人近い兵士が乗船していた。

 一気に、鄭州に、突き進んでいった。

 北京、武漢、南京などからも、ヘリや、戦車、装甲車、自走砲、トラック、ハンビー、ハマーが、兵員を満載して、鄭州に向かっていった。

 すでに、幹部たちは、特殊攻撃部隊の急襲で、身柄を取って、台湾に運ばれた。

 高雄に、Rグループの基地があった。

その営倉に幽閉された。

 あとは、鄭州を占拠するだけであった。

 ついでに、開封と、洛陽をも占拠していった。

これで、これはと思う町は、殆ど占拠したことになった。

 その間にも、残党狩りは、びしびしと行っていった。

 戦闘で一番良くないことは、手心を加えることであった。

呵責なく、攻撃していった。

 殆どの町が、陥落していった。

そのまま、進駐し続けた。

 R1号は、海南島を、徹底的に整備した。

 港湾、空港、道路、鉄道、上下水道、汚水処理場、学校、病院、役場、警察、消防、軍隊基地、マーケット、飲食街、住居用の、団地、マンション、一戸建ての町、映画館、各種競技場、歓楽街等々を造り上げていった。

 農業用地も区画された。残すべき自然は残した。

 この海南島に、琉球共和国からの、移住を募集したのである。

 移住者には、一時金が支給された。

 琉球国民であることは、同じである。

琉球共和国から、半分近くの人間が移住した。

 当然であるが、敷地が空いた。

 R1号は、アメリカの国防長官に、琉球共和国から、使者を派遣した。

「日本時代よりも、小さな敷地であるが、元のように、基地を造るように」

 と勧誘したのである。

 アメリカは狂喜した。

 さらに、

「琉球本島と、宮古島の間の海に空間が出来るので、そこに、軍事目的の、浮島を造りたい」

 と提案したのである。

「浮島?」

 国防長官は、首を傾げた。

 アメリカには、すでに、空母で、船の寿命が、来ているものがある。

「失礼ながら、これを、スクラップにするのは勿体ない。十隻の空母を、並べて、アンカーをうち、鉄とコンクリートで、固定していく。 空母十艦分の浮島は、かなりの広さである。しかも、滑走路つきである。兵士の居住区も兵器もある。通信施設もある。こんな理想的な、軍事用浮島はない。勿論、ダメージのあるところは、改修してから、浮島として使う。 すでに、中国も、ロシアも、実質的には、消滅しているが、仮に残党が、艦隊で、逃亡を図って、渤海、黄海、長江を出てきても、あそこを通過しないわけにはいかない。 そこに、空母十隻分の艦載機を積んだ、浮島があったら、通れますかね? スクラップにするのは、いつでも出来ます。 その前に、空母十隻分の浮島があったら、物凄い、要塞です。兵士の休養は、琉球本島と、宮古島があります。琉球本島には、すでに、滑走路つきの軍事施設があります。宮古島には、ヘリポートを造ります。 東アジア共和国とアメリカとの、安保条約の手土産です」

 この提案には、アメリカが驚愕した。

 空母十隻分の浮島となったら、さすがに、強力な要塞であった。

 国防長官は、直ぐに、大統領に相談をした。

大統領は、即座にこれを、了承して、事務

官レベルの協議に入った。

 海の浅瀬を選んで、浮島建設に取りかかった。

 これも建設は早かった。台風が来ても揺るがないように、艦隊を、海底に固定したのである。

 これの、工事は日本と、韓国が受け持った。

海底を鉄骨とコンクリートで固定した。

 尖閣諸島の近くに出来たのである。

 辛うじて、中国政府は、シャンシー省の西安に残ったが、なんの力もなかった。

 尖閣諸島の近くに、要塞の浮島が出来たことで、

「中国終わった」

 と幹部たちは、慨嘆した。

もう、到底、太平洋には出られないと思った。

 浮島からは、空母十隻分の、艦載機が、発進出来るのである。

「飛んでもないことを考案した人物がいる」

「琉球共和国側からの、提案だそうです」

 が、R1号の存在は、中国にも、アメリカにも不明であった。

 米軍の主力は、浮島に集まっている。

 空母十隻分を放射状に並べ、中央に、鉄板とコンクリートで造った。

広い広場が出来ていた。

これだと、十方向に艦載機が、発進出来たのである。

実に合理的な要塞であった。

 琉球共和国の基地は補助的になってしまったのである。

 しかも、空母十隻分は、東アジア共和国が、アメリカから廉価に買ったのである。

 スクラップよりも、数段高い値であったので、アメリカは狂喜した。

 これで、琉球共和国の本土から、基地の問題は消え失せた。

しかも、戦力的には、数段上になった。

(どうして、日本の時代に、沖縄の基地問題をこういう方法で解決しなかったのであろうか?)

 とR1号は、不思議な気分を抱いた。


         *


 林から、ハマーを借りた男の、鄭至純が、成田空港の税関で、MDMAの持ち込みで逮捕された。

 タイからの便であった。

 麻薬犬に嗅ぎつけられたのであった。

女と二人で、女は妊娠中で、臨月のような腹をしていた。

女の腹と、性器の中に、薬物を隠していた。

 鄭は、肛門の中に隠し持っていた。

 密輸の方法としては、古い手法であった。

 成田で、MDMAの持ち込みで、鄭が逮捕されたのを、白井は、報道で知った。

「林から、ハマーを借りた男の、鄭至純だ」

 と心の中で叫んだ。直ぐに、渡部に相談をした。



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