第六章「大国の崩壊」1
白井は、林が所持していた拳銃のことについて、尋問していった。
「林。お前の持っていた、拳銃、SIG=p226のことについて聞きたい。ドイツ製で、アメリカ軍の軍制にもなっている、大変に特殊な拳銃だ。出所に付いて訊こうか」
拳銃の写真を見せた。
「・・・」
林が無言になった。
「答えてもらおうか」
白井が、重ねて尋問した。
「・・・」
「林。お前は、銃刀砲所持違反。麻薬所持違反。麻薬常習者。麻薬密売。で逮捕されている。黙っていれば、心証が悪くなるだけで、お前にとって、有利な事は何もない。 それに、最近、中国は、四方の民族独立の大掛かりな、内戦が起こって、意外な事に漢人の中国が敗北した。 チベット、ウイグル、内蒙古、モンゴル、旧満州部、寧夏回部、広西壮部の諸部が挙って参戦して、各部が独立した。お前が所属し
ている、北斗七星団も、この内戦で、解散したようだ」
「え?・・・」
「嘘じゃない。そのときの新聞だ。中国の敗戦を報じているよ」
と見せた。
林は、新聞を凝視していたが、
「莫迦な・・・」
と声を落とした。
「こんな、状況になっては、マフィアもなにもないだろ。素直に話して、楽になった方がいいんじゃないのか。世界中の驚きになっているよ・・・話してくれ、どこから、手に入れたんだ?」
「判りました・・・話します」
「む」
「銃器の商人なら、どんな銃器でも、注文すれば、手に入れて来ますよ」
「で、その武器商人というのは?」
「日本にはいないでしょう。日本は、武器に厳しい国ですから。日本で取引すること自体、無理な話です」
「ということは?」
「東南アジアか、南米か、アメリカです。銃の規制が、ゆるやかなところでなければ、武器商人も、商品を出しやしませんよ」
「なるほどな。しかし、現実に日本に運び込んでいるが、日本の税関はそんなに、甘くはないだろう」
「あらかじめ、食品などの輸入品の中に入れて送り込んで置きます。食品の検査は、抜き取り検査です。取り出し難いところに入れておけば、税関は通ります」
「考えるものだな・・・」
「仕事ですからね・・・」
「仕事か・・・もっと、まともな仕事をしようとは思わないのか?」
「中国は、多民族国家です。しかし、重要な地位につけるのは、漢人で、共産党の政治局員だけですよ。それも、一人が出世をすれば、その一族の者が、すべてのポストを抑えてしまいます。庶民の入り込む隙間なんて、ありませんよ。その手の組織に入って、金を稼ぐ以外に、どんな方法があるのか、知りたいですね・・・日本だって、政治家の何割が、世襲ですか?・・・」
林に言われてみると、白井も、
(確かにな・・・)
という気分になった。
(日本も、中国も変わりはないな)
と思った。
「しかし、お前が持っていた拳銃は、完全な、軍用だ・・・それが、そんなに簡単に、外部に、流れるはずはないだろう」
「流れますよ。現に、俺が持っていた。銃器だって、基本は商品です。儲けるために作っているんです。儲けるためには、売れるということですからね。武器を必要としていところには、ごく自然に、その手の人物たちはいるものです。理屈じゃないですよ。匂いで判るのではないですかね。ですから、どこから買ったのか、手に入れたのかと言われても、商人から買ったという他はありませんよ」
林の言い分はもっともであった。
「その先は、誰が仕切っているのかと訊かれても、それが、判るほど、彼らはお人好しじゃありません」
「ドイツから、どういうルートで、と言われても、説明のしようはないと言う訳だな。林よ・・・」
「そういうことです」
と林が、頷いた。
(処置なしだな)
と白井は、思った。
渡部が、調子を変えて、尋問した。
「実はな、日本の広域暴力団が、十五人、スパイナー・ライフルで、見事に一発づつで、全員、眉間を撃ち抜かれた。熱海峠でのことだ。この事件は知っているだろう」
「報道で知った」
「なるほど・・・しかし、これをやったのは、どうも日本の暴力団ではないと言う見方が、専らだ。中国マフィアではないかと言う見方が、圧倒的なんだがな・・・」
「それは、濡れ衣でしょう。俺の耳には、その情報は入っていない・・・」
「日本の暴力団でも、中国のマフィアでもないとなったら、どこがやったのかな?」
「俺には判らないな」
「林が判らないとなると、幽霊か? 相手は・・・」
「韓国マフィアだっている」
「なるほど。しかし、このところ、韓国マフィアは目立った動きはしていない」
「目立っていないときの方が危ないのではないのかな」
林が言った。
「そうか。しかし、あれだけの腕となったら、滅多な組員(コマンド)の組ではないのは確かだ。そんな、団体が動けば判る」
「噂だが、紛争や、戦争ようの、警備会社あるそうだ。正規の軍隊ではないが、その分、滅法、戦闘力があるときいている」
「ほう。なんというグループだ」
「名前が判るようなグルーブだったら、頼む方は、注文なんかしないだろう」
「ふん。幽霊軍隊だな」
「警備会社だ。どこの国でも、使っているよ・・・アメリカでもな。イギリス、フランスなんかは、昔か使っている。情報関連では、エージェントというそうだ。宣伝工作から、重要人物の拉致、狙撃まで、なんでも引き受ける」
「まるで、昔の忍者だな」
「現代の忍者だ」
「確かに・・・そんなグループが、いると言う、噂は聞いたことはある」
「それじゃないのか?」
「林。面白い、夢物語をしてくれるな。警察は、その手のことでは、動かないよ」
「だったら、永遠に判らないだろうね。世の中には、信じられないことは、いくらでもある。日本は、表面上は、死ぬほど平和だ。国民は、それに、どっぷりと漬かっている。 しかし、世界の至る所で、動乱が続いている。おめでたいくらい、日本人は知らない。知らないで、済めば、これ以上、幸福な話しはないさ」
林の言う通りであった。
世界中の至るところで、戦乱は勃発している。日本にはない。
確かに、平和だ。
しかし、そのために、何かが欠けている気がした。
「凄い会社だな」
「刑事さん。人間というのは、こんな、俺が言うのも、変な話だが、最低の動物だ。金になるなら、何でもやる。また、戦争がないと、生活していけない種類の、人間もいるんですよ。職業軍人が、退役したら何をやるんですか? 人殺しの技術だけを、徹底的に仕込まれているんですよ。一般社会に出たら立派な一級犯罪者だ。そんな人間が、より集まったら、そういう会社でも作るほかないんじゃないんですかね。 軍は退役後のことまでは、面倒は見てくれないでしょう。生きていくには、そうするより他に、方法はないんじゃないんですかね。と俺なんかは、考えますがね」
林の考えには一理あった。
そういう組織を便利に思う国も、昔からあった。
フランスには、外人部隊と言うのがあったし、イギリス、オランダなどは、東インド会社という、特許会社を造って、アジア、アフリカに、植民地を造っていったのだ。
それが、国の繁栄の基盤になっていったのである。
大英帝国と言う呼び方は、それの残滓なのである。
林の、話は、リアリティーのない話ではなかった。
イラク、アスガニスタンの戦場には、そういう警備会社が、何社も入っていたのであった。
「古くて、新しい、戦争の考え方だな」
と渡部がいった。
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