第五章 5
R1号は、R21号以下の番号の者たち数名に、オーストラリアに行かせた。
ダミーに、インド人を表面に立てさせた。
レアアースの掘削権を、買いに行かせたのである。
すでに、チリとボリビアは、押さえていた。
あとは、南アフリカであった。中国と交渉中であった、南アフリカは、中国の崩壊で、ギブアップしていた。
そこに、インドが掘削権を買いに来て、ドル札の現金を、積んでみせたのである。
大型トラックに山積みのドル紙幣であった。
契約は、難なく締結させた。
オーストラリアも同じであった。
琉球共和国は、チベット、モンゴル、北朝鮮、チリ、ボリビア、オーストラリア、南アフリカ、カザフスタンの掘削権を手に入れて、共同開発を、行っていった。資源国も充分に潤う、利益配分にしていった。
技術者は、チベットや、日本から募集した。
掘削のための、重機は、日本の他、アメリカや、ドイツなどからも、価格を無視して購入した。
製品は、海南島、台湾、フィリピンのパラワン島に運んだ。
日本、韓国、アメリカなどが、買いに来た。インドも買いにきた。
一手に、資源を握ってしまったのである。
モンゴル、カザフスタンの製品は、北海道に置いた。
代替金属の研究は、ずっと、R1号は行わせてきたが、代替金属の可能性は、少なかった。
しかし、
(いずれは出来るだろう。地下資源である以上、いずれは、枯渇する。それまでの勝負だろう)
とレアアースの利潤は、あらゆる方法で、蓄財していた。
R1号には、趣味とか、贅沢と言う発想がなかった。
いまだに、自分の家もなかった。
空母の司令室で、兵隊と同じものを、食べていた。
人の集まるパーティーなどには、一切出席しなかった。
Rグループ自体が、秘密の組織であった。
R1号は、一切表面にはでなかった。
R1号には、古武士の風格があった。
目標とした一点を、視線から逸らすことはなかった。
しかし、視野が狭いということはなかった。
思わぬところから、発想をして、敵対する相手を叩きのめしていった。
けれども、決して戦いを好んではいなかった。
「戦争は、癌の手術のようなものだ。痛みも、副作用もあるが、取り除かなくては、命がなくなってしまう。必要最小限にするために、癌の枢要部を除去する。目に余れば、除去の対象になる」
その、R1号の所に、R3号が数枚の写真を持ってきた。
隆黄伯の写真であった。
ミャンマーの秘密の地下牢に虜となった、隆の写真で、十本の指を切断させれ、水牢の中で、肛門に蛇が、食い込んで行く場面も撮られてあった。
首が切断されて、体が爆薬で、木っ端微塵になっていた。
R1号は、視線を逸らさずに、凝視をすると、
「金物の、鍋を持ってきてくれ」
と命じて、写真を一枚々々、火をつけて焼き、舞の写真を取り出して、供えるように、また、写真を焼いて、瞑目した。
合掌した手が、震えていた。
「舞は、不幸な子だった・・・」
と呟いて、一滴の涙を落とした。
「拘わった者には、手厚く報いてくれ・・・ご苦労だった」
とR3号に、礼を述べてから、
「折角、仇を取ってくれたのに、こんなことを言うなんて、誠に失礼なことだがな。虚しい思いが、先に立つ・・・」
と呟くようにいった。
「R1号・・・当然のことです。舞さんが帰って来る訳ではありませんからね・・・」
「しかし、R3号。俺の胸から、鉛のように、しこっていたものが、取れていったよ」
「それはなによりです」
「目的の一つだったからな・・・」
「すでに、琉球共和国も、独立して、領土も増やしました。資金的にも、余裕ができました。目下、アメリカも、イギリスも、フランスも何も言ってきません。言って来たら、どういうことになるか、彼らが一番知っていますからね。 一番嫌だった相手を、すべて、我々独特の方法で、片付けました。怖いのは、我々の力を、知って、今度は我々を片付けようとしてくる国々でしょう・・・」
「しかし、R3号。我々、Rグループには、国土はない。領土もない。そのかわり、国境もない。どこにでも行ける。大袈裟なことをしなくてもな・・・我々に牙を向けてくるということは、自分の体に牙を向けて行くようなものだ。無言ならすべてが、平和になっていく・・・ただな、日本の愚衆政治を見ていると、今は、関係のない国だといっても、日本国民が、気の毒になって行く。私利私欲だらけの、日本のキャビネットのことだ。日本人が決めれば良いのだがな。 しかし、かつて、祖国であった国だ。気にならないといったら、嘘になる。しかし、どうするこも出来ない」
「円高基調は続くでしょう。幾ら稼いでも、輸出に頼っていたら、為替差損で、景気は上向かないでしょう」
「なぜ、土地でも、金でも、油田でも買おうとしないのか・・・ レアアースだってそうだ。採掘権を買おうとはしない。出来たものを買った方が、安いという発想だ。だから、企業の首を押さえ込まれる・・・ いまさら、レアアースの対策費を、予算でつけている。手ぬるいな。 世界が見えていないのだ円高を逆に利用しないのは、考えが判らない。 食料も、見事に、穀物メジャーの手に乗せられている。人間が食べれば足りるものを、家畜の飼料にして、その肉を食っている。牛一頭で、どれだけの人間が食べられると思っているのか・・・ 所詮、欧米人の知恵には、アジアは勝てないのか・・・ 暗澹としてくるな」
とR1号は、やるせない気分になった。
そして、しみじみとした調子で、
「琉球共和国は、独立して、本当に良かったな」
と大きく頷いた。
*
白井は、長期休暇を、取ろうとしていた。
(縦割りの縄張り制度の中では、思った捜査は出来ない)
と思ったからであった。
渡部は、そうした、白井の胸中を読んでいた。
「白井。一人でなにもかも、背負い込むな。
一人で出来ることには限界があるぞ」
と注意をした。
「もう、中国は崩壊している・・・追っても無駄だろう。下手をすると、北斗七星団自体がなくなっているだろうよ」
ともいった。
「ここまで、追い込めただけでも、お手柄なんだ。林とその他のものも、確実に起訴できる・・・林が白状(うた)ったことで、一連の筋書きは判った。判ったところで、俺たちには、どうすることもできない。中国にいって、逮捕するなどということは、一警察官には、不可能だよ」
「はい。悔しいですね」
「刑事をやっていれば、もっと、もっと悔しい思いをすることがあるよ。犬も歩いているうちに、大きな棒に当った。それだけのことだ。姉さんのことを思えば、なお悔しいだろうがな」
「はい・・・」
と白井は、唇を噛んだ。
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