第四章 「琉球共和国の独立」1

 赤沢の別荘地の林高徳の家に、ハマーがあった。

しかも、林高徳(りん・こうとく)の家なのだ。

 白井と、渡部は胸の高鳴りを覚えて、林の家のドアを開いた。

 林が、目の前に立っていた。

「林高徳(りん・こうとく)さんですね?」

 白井が、今度は、中国名で、聞いた。

「え?」

 林の顔色が変わった。

「車庫のクルマのことで、お聞きしたいことがありまして」

 渡部が気を利かせた。

「あ、あれは、私の車ではない。預かりものだ」

「ちょっと、署までご同行願えませんか」

 渡部が言うのに、林が、

「何の容疑だ? 任意か? だったら、ここで聞く」

 と拒む姿勢を見せた。素早く、白井が、林のボデイチェックをした。

胸で硬いものか触った。

それを取り出した。拳銃であった。

「いけないものを持っていますね」

 白井がさらに、足の方を触った。ナイフが出てきた。

その間、渡部はいつでも、取り出せるように、拳銃を握っていた。

白井が、素早く手錠を掛けた。

そのまま、外に連れだした。

 家の中に仲間がいることを考慮したのだ。

 渡部が、捜査本部に、応援の連絡を入れた。

サイレンを鳴らさないように要請した。

 応援が来るまで、軽自動車の中に、林をいれた。

「任意もなにも、銃刀法違反の、現行犯だ」

 と白井が言った。

「家の中には何人いるんだ?」

「弁護士を呼んでくれ」

 と言って、林は押し黙った。

 やがて、応援が到着した。

「こんなものを持っていました。それに、車庫にハマーがあります。家の中は、捜査していません。仲間がいる、可能性があります」

 と、上司に報告した。

 一斉に、家の中に踏み込んだ。女が、二人、男が二人いた。

警察の人数を見て、仲間たちは、抵抗をしなかった。

家の中を捜索すると、MDMAの錠剤(タマ)が、ビニール袋に入って、大量に出てきた。

「鑑識を呼べ。車も押収しろ」

 とガンさんが張り切った。


         *


「犬も歩けばですよ」

 署に戻って、ガンさんに言ったあと、白井が、

「あの拳銃。ドイツ製ですが、米軍の制式拳銃です。ナイフもアサルト・ナイフです。拳銃は、SIG=P226で、サウンド・サプレッサーと、大容量マカジンが付けられます。夜戦用のライトが、トリガーの前に付けられます」

 と言って、マニア用の雑誌をを見せた。

「使用弾丸は9ミリです。15発撃てます」

「白井。取調べに立に会え」

 ガンさんに言われて、

「え? いいんですか?」

「だって、密かに、休み返上で、横須賀まで行っただろ」

「あ、渡部さん、喋ったな」

「さっきだよ。喋ったのは・・・ハマーの後部シートから、女のものだろうな、毛髪がでた。いま鑑識で、被害者のDNAと照合している。符合したら、一気に事件が解明出来るんだがな」

「符合するような気がします」

 と白井が、視線を一点に据えて答えた。

「白井。執念だな・・・」

「え?・・・」

「姉さんの供養のだよ」

「は、はい。絶対になにか、掴めます」


         *


 白井が、林を、

「林、いや、中城(なかぐすく)高徳(こう

とく)さん」

 と呼んだ。

「国籍は日本人だ・・・」

「そ、その通りだ。日本人らしく、扱ってくれ」

「いいだろう。静かに、話そう。林さんは、遼寧省か、吉林省の出身か?」

「吉林省だ」

「なるほど。あそこは、朝鮮族が多い・・・MDMAは、北の者から仕入れたか」

「弁護士を呼んでくれ」

「いやでも、付くようになるよ。三皇五帝というのが、中国の神話にあるのは、知っているな・・・」

「子供でも知っている」

「その中の三皇というのは?」

「神農だ」

「あとの二人は?」

「伏犠と、女カだ」

「どんな形をしている?」

「妙な形だ」

「ほう。具体的に教えてくれないか?」

「半分人間だ」

「半分は?」

「龍だよ」

「その図を描いてくれないか」

「なんの関係があるんだ?」

「描きだくなければいいさ。ここに本がある。中国の神話の本だ。ウイグル自治区で出土したものだ。正確には、トルファンで出た。この画だよ」

 と本を見せた。

「・・・」

 林が黙った。

「靴下を脱いで、足の裏を見せてくれ」

「嫌だ」

「そうは、行かない。それで、林、お前さんが所属している、グループが判るんでな。靴下を脱いで、足の裏を見せなさい」

 白井の厳しい声で、林が、足の裏を、見せた。

北斗七星の刺青が、両脚にあった。

「写真を撮るよ。刺青の写真だ」

 係りのものが、両脚の写真を撮った。

「北斗七星団だな。中国東北部に根を張っているグループだ。違うか」

「・・・」

「答えなくてもいい。情報は入っている」

 白井がいった。渡部も、ガンさんも、内心驚いたが、

「そうだ」

 と林が、大きく頷いた。

「幹部でなかったら、北斗七星の刺青は入れない。いや、入れられないんだ。勲章だからな」

「そこまで、知っていたら、何も聞くことはないだろう」

 林が、ふて腐ったようにいった。

「そうはい行かない。結婚相手に、この伏犠と女カの刺青を、入れさせた。中城舞だ」

「もう、別れた女だ」

「別れたら、殺すのか」

「莫迦な。殺してない! 濡れ衣だ」

 と林が、激昂した。

「これが、籍を入れた、戸籍謄本だ」

「・・・」

「そして、お前が、中城舞の背中に、伏犠と、女カの図を、背中に入れさせた」

 と背中に、刺青のある写真を、林の前に突き出した。

 ガンさんも、渡部もこの場面は、黙って見守っていた。

(なかなか、良い追い詰め方だ。それだけ、調べているってことだ)

 とガンさんが思った。

 その時に一人の刑事が入ってきて、ガンさに耳打ちをした。

 ガンさんが、白井と、渡部に、小声で、

「ハマーの、毛髪と、被害者(がいしゃ)のDNAが一致した」

 と伝えた。白井と、渡部が大きく頷いた。

 林が、不安そうな顔になった。

「なんで、刺青を入れさせたんだ」

「中国に帰ったときに、災難に会わないためた」

「虚偽を言うな」

「・・・」

「取引のときの割符に使ったんだろ」

「・・・」

「逮捕した、別の女の背中には、神農の刺青があった。三皇と、見せ合って、本物の相手かどうかを、確認した。これほど確かな、割符はないからな。片やが、伏犠と女カで、もう一方が、神農。つまり、三皇がピッタリあえあば、仲間で、取引きをしても良い相手ということだ。日本の警察を甘くみるな。今回の逮捕者の、刺青の女、二人は白状したよ。神農と、伏犠、女カの刺青を入れていた。割符の女二人という訳だ。舞が死んでしまったからな。新しい割牒の女が、必要になったんだ」

「でも、殺してない」

「でも、ということは、刺青が、割牒だというのを認めたのだな」

「どう思おうと、勝手だ」

「そうか。ところで、車庫に入っていた、ハマーは、お前のものだ、と四人の男女が答えている」

「それなら、そうだろう」

「ハッキリして貰おう」

「俺のだよ」

 林が白状した。

 すると、渡部が、交代して、

「そのハマーの後部シートから、女の毛髪が発見された。男の毛髪も出た。二本とも、被害者のDNAと一致した」

 と淡々といった。

「べ、弁護士を呼んでくれ」

「黙っていても付くといっただろう」

「・・・」

「黙秘(ダンマリ)か。被害者、中城舞の、父親は、琉球共和国の大統領に就任した。正式に琉球共和国となるかどうか、今後しだいのようだがな。その琉球国の軍の最高司令官で、首相になったのは、中城秀球と言う人物だ。舞の弟さんだ。独立国後の裁判がどういうものが、見てみたい。わざと脱走させて、私刑(リンチ)に掛けるということぐらい、やるかもしれんな。一寸刻みにして、そこに、塩と、泡盛を掛ける。痛さで気絶するよ。眼を覚まさせるのに、松明で、傷口を焼く。また、切り刻む。塩と泡盛を掛ける。気絶する。傷を焼く・・・」

 渡部が、淡々と言った。

「琉球に、渡してもいいよ」

「や、やめてくれ! すべて、話す」

 林が、全身に脂汗をかいて、叫んだ。余程の恐怖だったのであろう。

おこりのように、体中を震わせていた。

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