第三章 3

Rグループの幹部たちは、各国に散っていた。

 目的の達成のためには、厖大な資金が、必要であった。ビシネスとして、あらゆることを、やっていた。

非合法も、合法も関係なかった。稼ぎの額が問題なのであった。

その資金は、いずれ、目的のために使われることに、なる。

 すでに、資金以外にも、必要とおもわれるものは、着々とプールしていた。

 フィリピンは、七千からの島で構成されている国である。フィリピン政府でも、島の内容を、把握していない島があった。

そうした、島の一つに、造船所と、兵器工場が出来ていて、そうした施設は、外側からは、見えないように、隔離されていた。

 軍事衛星を考慮して、天井にも、自然の土や、草を繁らせて、衛星カメラに映らないように工夫していた。

 建造しているのは、航空母艦であった。

部品は、複数の工業国に発注していた。

それを、運んで、組み立てているのである。

戦車も建造していた。

 しかし、空母に艦載するファイターのジェット機と、ジェットヘリは、最新鋭機を、発注していた。

欧州の某国の企業で、先に現金を半額渡してあった。

すでに、製作に入っているのを、Rグループは、確認していた。

 外交的に密かに、活動していた。

目的のための行動を起こしたときには、国として、賛意を表明してくれる国を、選び、諸々の工業製品を、発注していたのである。

『目的』とは、他でもない、沖縄の、「琉球共和国」としての、独立であった。

 そのために、各国の国際法の権威者たちから、多方面にわたってのレクチャーを受けていた。


琉球の歴史的な経緯から、侵略を受けた、江戸期の、島津藩の攻撃の一々を、ファイリングしてあった。

 中国、韓国、台湾、フィリピン、ベトナム、タイ、ロシアにも密かに手を廻していた。

 歴史的な、江戸幕府の島津藩を通じての侵略の傍証を、隣国として、表明してくれるように、権威者を、依頼してあったのである。

 それと、同時に、当時の、琉球王朝であった、尚王朝の子孫が、沖縄に居住していた。

首里城の陥落のときの、諸々の歴史的資料が残っていた。

 さらに東京の東京大学歴史々料編纂所に、琉球が、日本に編入される時の、歴史々料の、蒐集を依頼してあった。

『大日本史料』を、帝国大学の時代から、国家的規模で、延々と発行してきた編纂所である。

 こうした、歴史的裏づけから、太平洋戦争における、日本々土の軍部の行ってきた、残虐で、非人道的な、仕打ちの、沖縄県人の生の声までを、ファイルしてあった。

それらは、すべて、タイピングされ、オンデマンドで、数組の史料、資料として、数十巻以上に製本されてあった。

「後は、沖縄県民の、独立に関する、県民投票が、どれだけ集まるかということだ。 正式に、選挙管理委員会の、管理の下に投票を行う。そこで、投票資格のある、県民の三分の二以上の賛成票があればよい。 さらに、県議会の三分の二の賛成票と、知事の賛意があれば、これを、日本政府に提示して、世界に向けて、独立宣言を行い、沖縄独立に賛成してくれる国々の意見を、添付して、国際連合に参加の意向を示していく。 ここまでやれば、歴史的背景も明白なのだから、日本政府も認めない訳にはいかないだろう」

「その場合、独立の集会に、警察権力が介入してきませんか?」

 北糀谷の事務所の会議室に、幹部が集まっていた。

R1号に、質問をしたのは、12号であった。

「機動隊が、鎮圧に乗り出してきたら、その様子を、ビデオに収録して、各国の放送局に配信する。 世界的な、コンセンサスを得ることだ。 その上で、独立を阻害するものであるから、我々、独立軍は、これを、日本政府からの宣戦布告と受け取る。 故に、独立義勇軍は、これと、住民と共に戦う、と世界に宣告して、我々、グループは、沖縄レジスタンス軍として、機動隊を徹底的に掃討する。 そのための、訓練と、準備を、我々はしてきているではないか。思い切り戦う。戦車も投入する。遠慮は要らない。警察機動隊を、徹底的追い詰める。海自、陸自が、出てきたら、空母を出す! 日本は憲法で、戦争の放棄を謳っているのに、あの、憲法はなんなのだ、と世界に発信する」

「アメリカは?」

「手を出さないよ。普天間基地は、住宅地に囲まれているんだぞ。 三六〇度から、攻撃を受けて勝てる軍隊はない。 それに、ある兵器を、すでに手に入れてい

る。 それを、太平洋プレートと、北アメリカプレートのずれを生じている部分に、仕掛ける。コルディエラ造山帯に沿った海中に仕掛ける。サンフランシスコと、ロサンゼルスの間だ。 同時に、日本の、日本海溝と、伊豆・小笠原海溝に沈める。日米に同時に巨大な、地震が起きる。 東京も、直下型の地震を受けるだろう。飛んでもない数の核の提供を受けている。これを、米国大統領と、日本の首相に無線連絡する。 起爆装置は、沖縄にあるとは、限らない。よって、正規の手続きによる、独立なのであるから、素直に認めるべきである、とな。言って聞かせるさ」

「各国の報道機関に・・・」

「いや。大統領と、首相だけで、充分だ。太平洋のど真ん中で、一発だけ爆発を、デモンストレーションで起こす」

「・・・」

「日米は、共に撤退をするよ。その時に、沖縄中の米軍と、自衛隊のジェットと、ヘリを飛べないようにする。各機に鎖の網を掛けて、それを楔で、止めてしまう。軍港には、機雷を敷設する。沖縄の米軍と、自衛隊は、手も、足も、出なくなる。 独立を認めるよ。琉球共和国は、本気で全国民が、憤怒している。と世界に、この時に初めて、宣告すれば良い」

「R1号の頭の中では、何度も、演習が行われているようですね」

 12号が頷いて言った。

「時期がきたら、もっと克明に説明するよ」

 と言ったあとで、R1号が、やたらに説明した。普段では、ないことだった。

「すでに、キティーホーク級の空母を二隻、造船している。進水を終えて、儀装と、搭載武器の工事に入っている」

 幹部たちが、一斉にどよめいた。

R1号が言葉を続けた。

「全長三一八・八メートル、最大幅八〇・九メートル排水量は満載で、八一、九八五トンだ。エベレーター四基。アングルドデッキの長さ二三〇・二二メートル。カタパルトの長さは、九〇メートルで、蒸気使用だ。重量三九・九キロの艦載機を、時速二五五キロメートルで射出する。これに、ヘリ空母ともいえる、揚陸艦を八隻。ヘリ三機搭載の護衛艦、(デフェンスシップシップ)戦艦(バトルシップ)、巡洋艦(クルーザー)、駆逐艦(デストロイヤー)、潜水艦(サブマリン)、高速魚雷艇、その他だ。これで、沖縄をぐるりと守備する。これに、イージス艦と、その電子基地。軍事用サテライト(衛星)を打ち上げる。沖縄から打ち上げる必要はないからな。艦載機には、F15ー改Ο、ステルス機、電子偵察機、ジェットヘリは、すでに用意してある。陸上には、戦車、装甲車、自走砲は二〇三ミリだ。ハンビーには、無反動砲と、ロケットランチャーを積む。不満か?」

 R1は、それらを、メモも見ずに一気に、述べ終えた。

「いや。今の話を聞いただけで、充分に戦略が、判りました。多分、すべての、兵器は、手元に置いてあることでしょう。R1号のことですから」

 15号が言った。

「R」は、レジスタンス(resistance)の頭文字であった。

 R1号はそのために、資金を、手段をえらばすに、稼いできた。

 しかし、沖縄で、R1号の父である、中城秀建が、堂々と、沖縄の独立運動を、興し、それが、燎原の野火の如く、沖縄全土に拡散していったのは、感動的であり、予想外の出来事であった。

歓喜の出来事でもあった。

 それだけに、秀建の身辺を、二十四時間ガードしろと命じて来た。

まさに旗印が、出来たのであった。

一個中隊を、ガードに使っていた。

勿論、私服で、蔭から護衛していた。

「為政者は、卑怯を、卑怯と思わずに行うものだ。日本の警察も、検事も、司法ごと腐っているからな。法務大臣自ら、パフォーマンスをやる国だ。油断するな。毎日結果を報告させろ。秀建氏は、宝ものだ。失うな。初代大統領になる人だぞ」

 R1号は、発破をかけた。


         *


 白井刑事は、やり切れない、もどかしさを感じていた。

 警察の縦割り行政の中で、伊東署と言う所轄の一刑事では、行動範囲も制限されていた。

所轄外での捜査には、限外があった。

相変わらず、管内を、尺取虫のように、這い回るだけであった。

渡部とコンビを組んでいる。

 渡部には、白井のイライラが、手に取るように判った。

「白井。俺たちは、所轄の一兵卒だ。出来ることは、限られている」

「はい。しかし、今回の事件(やま)は、個人的な犯行じゃありません。何か、どでかい犯行グループが、背後で動いている。そんな感じがします。外国人のグループも入っているような・・・」

「それは、公安や、マル暴が動いているよ。六本木で、琉黄会の組員六人が、眉間に一発づつ狙撃をされて、倒れていたそうだ」

「はい。その時に使われていた、銃器が、SPR=Mk12だということです。米軍のスナイパーが使う銃です。遠距離から、確実に相手を倒せます。サウンド・サプレッサー(消音器)をつけ、スコープを付けていたら、暴力団だろうと、イチコロです。琉黄会への威嚇でしょう。琉黄会は、恐怖ですよ。手も、足も出ませんね」

「白井の言う通りで、琉黄会では、外出禁止令が出ているそうだ。暴力団より怖いグループが、日本に上陸したってことだな」

「男女の死体の爆発の警告で、判らないならと、熱海峠で、十五人を殺し、六本木で、六人を狙撃したということですか」

「六人は、麻薬の売り子の、アフリカ人を、締め上げていたそうだ。熱海峠の車の中には、一袋、MDMAが入っているビニール袋がが出てきたそうだ。取引が、あったのではないが、という見方をしている。琉黄会が、徹底して、狙われている。が、取引の相手は、琉黄会自身にも、皆目、見当が、付かない。取引を持ち掛けてきたのは、インターネットでだった。メールを追跡したが、世界中を、旅して、最終的に、タイのサーバーを使って、連絡をしてきている。到底、メールからでは割れない。タイの先もあるそうだ」

「クスリ関係は、殆どそうですよ。バイアグラの販売メールも殆ど、英語での販売だそうです。支払いは、ドルです。金は、ワイアーケーブルで、ハワイの銀行だった、マカオの銀行です」

「詳しいな」

「いえ。付け焼刃です。ドラッグの他に、AV、エロビデオも、出演しているのは、日本人でも、海外で撮影して、東南アジアや、インド、ブラジルのサーバーで、取引していますから、捜査のしようがありません。ドラッグは、最近では、デザイナーズ・ドラックというのが、出ていて、成分を変えて、合法ドラッグとして、取引しているようです。MDMAでもです。何が入っているのか、判ったものではありません。ま、買う人間がいるから、商売になっているのでしょうが、インターネットのオークションに出でくると言いますから」

「それの、大量取引が、熱海峠で、あったということだな」

「紛争地域の特殊部隊並の装備で、ジェノサイドで、金を払わず、ブツを持って言ったか、逆に、ブツを渡さず、金だけ奪っていったかでしょうね。ドギツイ取引ですよ」

「それで、六本木で、売り子を締め上げて、元を辿ろうとした。売り子は、日本語も、英語も判らない、ネイシャー・アフリカンだそうだ」

「ブツを渡して、金を受け取るだけですから。言葉が判る必要はないでしょう。言葉が判らない方が、秘密を保持できます。売り子ごと、輸入しているんじゃないんですかね」

「アフリカ語ではどうにもならない。麻布署でもお手上げだそうだ」

「これに、中東の者たちが、入ってきたら、犯罪も、国際化ですね」

 と言いながら、赤沢を聞き込んでいた。

赤沢は、坂が急である。

とても歩いては、捜査出来ないので、軽四輪で、廻っていた。

 老人夫婦がいたので、降りて、

「こういうクルマに乗っている人を見ませんでしたか?」

 と白井が、ハマーと、ハンビーの写真を見せた。

 夫の方が、ハマーを見て、

「この先の、角から二軒目の家の人が乗っていたなあ・・・今はいないと思うけど」

 と答えてくれた。

「ありがとう」

 といって、急いで、車に乗った。

「犬も歩けばかもな」

 と渡部がいった。

 角から、二軒目の家にいった。

 車庫にハマーが停まっていた。

「あった」

 白井が、声をあげた。人の居る気配があった。

 表札を見た。

「林」とあった。

「ん? 林高徳か?・・・」

 白井がいった。渡部が、

「まさか・・・」

 と言ったが、

「その、まさか・・・かもしれんぞ」

 と、家の前をゆっくりと、通り過ぎた。

路地を曲ったところで、車を止めた。

拳銃のホルスターの留め金を、外した。

家の周辺を洗った。

「入るぞ」

「はい」

 と白井が、答えた。

 インターホンを押した。

「はい・・・」

 という声が返ってきた。

「林高徳(はやし・たかのり)さんですか?・・・」

 と日本名で聞いた。

「そうだけど。どちらさんですか?」

 と言う答えが返ってきた。

 白井と、渡部の顔に緊張が走った。

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