第三章 2

秀建は、沖縄の独立運動を始めてからというものは、いままででは、考えられなかった、多くの人々と、交流をせざるを、得なくなってきていた。

正直にいって、すでに、70代に入っていたので、体力的にも、そうした、交流は、容易ではなくなってきていた。

しかし、秀建は、独立運動の、象徴的な存在に、祭り上げられていた。

それは、秀建が望むと、望まないとに関係なく、独立運動の旗頭にされて、しまっているところがあった。

いつの間にか、独立運動の事務所までが、出来て、ボランティアでは

あったが、多くの人々が、手伝いに集まってきていた。

大部分は、善意の人なのであろうが、人が多数集まれば、百%善意の人とは、限らないものであった。

(独立させたくない)

という勢力からの、エージェントなどからの、回し者がいたとしても不思議ではなかった。

また、そう考えるのが、普通の用心というものであろう。

しかし、秀建は、そうした考えをもたなかった。

集まってくる者を、すべて味方であると信じ込んでいた。

欧米では、正規の兵士以外にも、傭兵と言う存在があった。

アフガニスタンの、テロとの戦いにも、多くの傭兵が用いられた。

以前と異なって、傭兵は、警備会社の形を取っていた。

警備会社が、一つの陣営や、国に、何社も入っていたのである。

欧米の警備会社だけとは、限らなかった。

特殊警備会社の、装備や、兵器は、正規軍と何ら変わることはなかった。

軍装も、殆ど同じで、腕のマークや、肩章、胸の階級章などが、異なっているだけである。

欧米の警備会社だけでは、作戦的に、多様性がなかったので、アジアの警備会社も使われていた。

この仕事は、当然、命掛けであったが、稼ぎは良かった。

安い報酬で、こんな、危険な仕事を、引き受ける者はいない。

けれども、アメリカ本土から、正規軍を招集するよりも、数段廉価になった。

何組もの、警備会社が、戦場の最前線に出ていた。

表看板が『経済科学研究所出版』である、Rグループも、中東で、警備会社をやっていて、万単位の兵士を、前線に送り出していたのである。

ここからの収入は莫大なものになった。

社員は、自衛隊の退職者や、軍事オタクを採用した。

守秘義務があるのはもちろんであった。

契約した社員(兵士)は、アメリカ本土の、訓練設備を使って、兵士を訓練することが出来た。

1年間、訓練をして、アフガンや、その他の前線に送りだした。

警備会社の兵士の中には、特別の訓練を受けている者もいた。

情報に関する訓練を基礎訓練の他に受けていた。

彼らは、アメリカの情報機関と、常に連絡を取っていた。アメリカ兵が行かない、奥地に入り込んで、情報をとっていた。

すでに、立派なエージェントで、仕事は、機密の取得、敵の後方撹乱、人心へ

の巧みな宣伝工作、施設の破壊、動乱、要人の拉致、暗殺、人質の救出など、多岐にわたった作戦要員となった。

ときには、ハンビーに、重機関銃を搭載しての、治安維持のパトロールもあった。

その途中では、当然、敵に遭遇して、銃撃戦(ランデヴー)になることもあった。腹が据わっていなくては、出来ない仕事であった。

Rグループの社員(兵士)は、日本人だけではなかった。

多種多様な、人種が採用されていた。

また、Rグループは、便宜上、日本を始め、世界のマスコミ各社と、契約をしていて、特派員の、肩書きも持っていた。

差しさわりのない情報を、契約している各社のマスコミに売り捌いていた。

それでも、現地の情報であったから、ニュースバリューがあったのである。

『経済科学研究所出版』の子会社の『ウォーズニューズ社』(WN社)は、本社を赤坂に置いていた。各マスコミは、競って、WN社の写真や、ニュースを買いに来ていた。

WNの本社は、赤坂だけではなく、ニューヨーク・パリ・ロンドンや、各国の主要都市に本社を置いていた。

すべてを本社とよんだのであった。

マスコミとしては、自社の社員を、そんな、危険なところには、とても、派遣出来るものではなかったのである。

しかし、ニュースは、乾いた喉にビールを流し込むように欲しかったのであった。情報も需給のバランスで価値がきまった。

WN社のニュースは、黙っていても高く売れた。

『経済科学研究出版』では、株と、為替と、先物取引の月刊誌を発行、発売をしていた。

非常に高価な雑誌であったが、記事の精度が、他誌とは、まるで違っていた。

発行している場所は、大手町であった。

大きいとは言えないが、自社ビルを、持っていた。

通信社の部門も持っていて、会員には、PCと、FAXでの、サービスを行っていた。

会費は、非常に高額であったが、なお会員の資格は、厳選をしていた。

それでも、十万単位の会員があった。

国内の情報は、僅かで、多くは、世界の生の情報であった。

中央アジアのウイグル、カザフスタン、キルギス、タジキスタン、ウズベキスタン、トルクメニスタン、アフガニスタン、パキスタン、インド、イラン、イラク、クエート、と言った国の情報が載っていた。

それと言うのも、WN社は、アルジャジーラと、提携をしていたのである。

イエメン、ソマリア、オマーン、サウジアラビアなどの、記事が出ていることもあった。

エジプト、シリア、リビア、チュニジアの動乱の記事も特集されていた。

こうした国の動きは、なかなか伝わってこなかった。

しかし、こうした国々の状況によって、原油などの先物が、著しく価格を変動

させたので、マーケット関係者などは、情報に神経質になっていた。

それで、『経済科学研究出版』社の雑誌を争って講読していた。

アメリカが、キルギスに、軍事基地を造ったという第一報も、WN社のものであった。

そのために、ロシア、中国、キルギス、カザフスタンなどが、カザフスタンで、合同軍事演習を行う、という第一報も、WN社が配信した。

その上に、『経済科学研究出版』社は、子会社に、為替、株、先物商品取引の会社を持っていて、トピックがあると、はじめに、その会社に十分に利益をださせておいたWN社は、アルジャジーラの仲介で、各戦闘集団と、顔を繋いでいた。

高額で、武器の売買の仲介もしてやった。

武器も大切であったが、資金は、もっと大切であった。

買い取った武器は、フィリピンの島に運ばせた。

フィリッピンの、その島には、あらゆる兵器・武器がストックされてあった。

ロシア製も、アメリカ製もあった。

ドイツ、ポーランド、ベルギー、スイス製もあった。

逆に、武器を欲しがっていとるところもあった。

そうした、ところには、武器を売ってやったのである。

そうしたことから、各民族ごとの事情に、ディープに詳しくなっていた。中国、韓国、フィリピンで、日本に行きたいという者には、船を都合してやって、先島諸島に上陸させて、沖縄本島に上陸させて、その先は、南西航空で飛ばして、九州の鹿児島に上陸させて、あとは、列車で、目的の場所に行かせた。

安全なコースであった。

人、金、モノ、武器、情報を、巧みに、自在に動かして、失敗がなかった。

モノの中には、小麦、大豆、トウモロコシ、米などの穀物から、牛肉、ラムな

どの肉類から、原油、鉄、非鉄金属、レアアースまでを扱っていた。

新車、中古の自動車もあつかっていた。

テロ集団にも、抜群の信用があった。

ダイレクトに、電話一本で、テロ集団の幹部に、密かに面会できたのである。

資金のない、グループには、資金を貸してやった。

食料のない地域には、NPOの援助物資を、廻してやった。

国連の物資も廻してやった。

WNグループの信用は、抜群であった。

自爆テロが、行われるときには、あらかじめ、米軍に知らせて、犠牲が出ないように、遠くに避けさせておいた。

米軍にとっても便利な存在であった。

WN社の身分証は、パスポートよりも、有効であるとさえ言われた。

WN社は、現地の人間も採用していた。

各軍部の大将級に顔が利いた。

それだけのドルを撒いていた。

まだ、賄賂が有効な国には、そのようにした。

そうした、どちらにも有利な立場は、日本人だから、出来たのであった。

現地のものに依頼して、カザフスタンでの、軍事演習の模様を、動画の写真で、撮影させて、それを米軍に売った。

莫大な金が入った。暫くおいてから、米軍の許可を取って、欧米のマスコミ

に売った。

そのあとで、すかさず、日本のマスコミに売ったのである。

「戦争ほど、儲かるものはないな」

と、7号は、北糀谷の事務所でいった。

武器と共に、麻薬も大量に買ってやった。

フィリピンと、台湾にストックして、必要に応じて、船で先島諸島に運んだ。

南西航空で、沖縄本島に運び、鹿児島や、熊本空港に運んで、あとは、トラックで建築資材と共に東京に運んだ。

常に、市場に品不足状態をつくっておいた。

そして、少しづつ、売り子に渡したのである。

これも、非合法であるが、荒稼ぎになった。

売り子は、アフリカから、人を送り込んだ。

彼らは、忠実に仕事をした。アフリカにいたのでは、こんな大金は掴めなかった。

風邪薬でも売るように、麻薬を、路上で売り捌いた。

英語、米語、日本語もわからなかった。

金と商品を交換で渡した。

配下に、あまり、パワーのない、暴力団を使って、間に入れた、数組の組を入れた。

独占させないためであった。

琉黄会が、市場の独占を企図した。

「それは、駄目だ。売り子も、商品もこちらが提供しているんだ。濡れ手に粟というのは、許さない」

とR1号が首を振った。

「売り子を数人で、脅かしているらしい。遠くから、その数名のヤー公を、全員狙撃して倒せ。何所から狙撃しているのか、わからないように、一発づつ、眉間に撃ち込め」

十数箇所の屋上に、狙撃兵を配置した。

銃は、狙撃用の、SPR=Mk12を使用させた。

サウンド・スプレッサーと、遠距離スコープつきで、二脚が付いていた。

夜間を考慮して、暗視スコープが付いていた。


         *


R1号が命令した二日後の、六本木の交差点に程近い、麻布よりの、首都高の下で、麻布警察の反対側の歩道である。

アフリカ人の売り子が、数名の琉黄会の者に囲まれて、脅かされはじめたが、アフリカ人は、日本語が判らないので、キョトンとしていた。

「この野郎ら、日本語も、英語もわからねえと来てやがる。始末に負えねえな」

琉黄会の者がいって、アフリカ人の胸を小突いた。その刹那、琉黄会の者が、眉間に銃弾を受けて、ゆっくりと仰向けに倒れて言った。

さらに三人の男が倒れた。

つづいて、残りの二人の男が倒れた。

アフリカ人の男は、急いでその場を離れて、路地に逃げ込んでしまった。人通りが、雪崩れ、災難を恐れて、倒れた男たちの傍を離れて行った。

午後八時の六本木で、六人の死体は、放置されたままになっていた。

誰もが係わり合いになるのを恐れたのであった。

やがて、巡回中の警官が、六人が、いずれも、見事に、眉間を射抜かれているのを、発見した。

都会は、人が大勢いても、他人への関心のなさと言う意味では、砂漠同然であっ

た。

警官が六人を発見したのは、午後十時であった。

狙撃されてから、二時間を経過していた。

鑑識が、使用された銃を銃弾から、わりだして、愕然となった。

「SPR-Mk12でしょう。米軍でも、スナイパーが専用に使っている、特殊な銃です。それが、なんで、こんな場所で使われているんでしょうね?」

と鑑識課員が首を傾げた。

「完全な軍用狙撃銃ということか」

「とても、並みの暴力団の手に入るものではありません。SPR-Mk12だったら、飛んでもない、遠距離から狙撃出来ます。しかも、スナイパーの腕は、抜群です。みな一発で、眉間を射抜いています。こんなの、見たことがありません。銃の扱いに手馴れています。相当の訓練を受けていますね。単なる、暴力団員ではありません」

麻布署内に設置された、捜査本部には、警視庁から、一課と、マル暴が来ていたが、頭を抱え込んだ。

「余程の証拠が揃わなかったら、米軍キャンプには、踏み込めないぞ。政治問題化してしまう」

「下手を打ったら、警視総監も、警察庁長官も首が飛ぶ。勿論、上に黙って捜査することは出来ない」

「仮に、米軍でなくとも、こんな、銃器が使えるグループは、何らかの形で、米軍のエージェントになっている可能性がある。捜査に米軍から、ストップが、かかるだろうな」

「被害者の六人は、琉黄会の組員だと言うのは割れた。琉黄会が、何所の組と抗争をしていたかを、聞き出す他はないな」

というので、警視庁のマル暴の手で、上野の琉黄会に、ガサ入れが行われた。

組の事務所が使用禁止になった。

琉黄会の本部長の徳田が、任意で、警視庁に連行されて、

「何組との抗争(センソー)なんだ?」

と追求を受けた。

「お恥ずかしい話ですが、相手が、まるで、見えないんです。だから、売り子を締め上げて、相手の組を聞きだそうとしていたんですが、売り子は、アフリカからの直輸入で、日本語も英語も、判らないときている。こっちも、気をつけていて、数人が一グループになって、行動を開始したところだったのですが、その矢先に狙撃されたというのが、本当のところです。誰が、あんな、テロみたいな、狙撃を考えますか。俺たちも考え込んでいますよ。俺たちが承知している組で、あんな恐しい銃器(ドーグ)を使う組は、ありませんよ」

「ということは、琉黄会にも、相手が、特定出来ていないということか」

「残念ながら、そういうことです。組員、総がかりで探していますが、まるで、見当がついていませんね」

「外人のグループかな?」

「刑事(ダンナ)の仰る可能性は、ありますね。それも、韓国や、中国ではない。まったく別の国だ。恐ろしい時代になりましたよ。国内の組同士だったら、大抵の事は、話し合いで、解決がつきます。お互い抗争ほど、割が合わないことは、承知してますからね」

といって、帰えされた。

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