第三章「我らの旗」 1


R1号は、沖縄の独立、琉球共和国の新聞記事を、凝視していた。そして、2、3、4、5号に、

「秀建氏を、徹底的にガードするように、先島諸島のグループと、フィリピンのグループを、沖縄本島に大至急上陸させて、ガードさせろ」

と命じた。

2号から5号までが、一斉に、無線機に飛びついて、モールス信号を打ち始めた。電文は、暗号の上に、フランス語を用いたかと思うと、時間単位で、ドイツ語、ア

ラビア語、中国の広東語、北京語、スペイン語、ポルトガル語と言ったように、変換して打電した。

インターネットは、一切使わなかった。

モールス信号という古い、アナログが逆に通信の安全な回路になった。

本土から、沖縄に向かわせるグループもあった。

R1号が、そのように、命令を下したのは、『目的』が同じだったからであった。

「絶対に秀建氏を守り通せ。それと、紳士的に面会して、資金の援助を申し出ろ。

この役割は、6号と8号で行え。金額も期間も、無制限だ。秀建氏か、秀建氏の息の掛かったものが、大統領に、就任するまで、的確に行え。 アメリカと、日本の秘密特務チームが、秀建氏を狙ってくるぞ。 中国、韓国、北朝鮮、ロシアにも気をつけろ。 イギリス、フランス、ドイツにも気をつけろ。 CIA、KGBにも気を付けろ。沖縄の独立を、快く思っていない連中もいるはすだ。 情報部隊に総動員を掛けて、どんな小さな情報でも集めろ。 それと、7号にも、別の仕事がある。六本木の、売り子を、琉黄会が、締めあげているようだ。 この連中を、遠くのビルの屋上から、狙撃しろ。五、六人倒せば、納まるだろう。暴力団といっても、腰抜けだ」

「はい」

と、7号が、部屋から出ていった。

「面白くなってきたな。沖縄の者は、国民投票をすれば、確実に、それも圧倒的に、独立票になるはずだ。 その投票を持って、日本の政府に突き付け

、独立宣言を行う。 世界が、支持すれば、独立は有効になる。支持する国の根回しを、しておかなくてはいけない。14、15、16号。根回しの仕事を頼む。

中国、韓国、フィリピン、ベトナム、タイ、イギリス、フランス、インド、オランダ、ポルトガル、ベルギー、ロシアと十ヵ国以上が、支持すれば、問題ない。そのまま、国連に入る。 そこまでやれば、独立だ。日本政府で、反対する政府の大臣は、狙撃しろ。何なら首相を、倒せ。 震えあがって、独立を認めるよ。根性のあ

る、政治家は、日本にはいない。 面倒なのは、アメリカだが、下手に反対し

たら、構わない暗殺しろ。 アメリカの思う通りには、ならないってことを教えてやるさ。基地も、移転したくなるようにしてやる。 いざとなったら、一気に、基地のFジェットと、ジェットヘリを爆破する。中東のテロ軍団に声明を出させる。電話一本で、やってくれる手筈はついている」

「1号が言って、出来なかったことはないですからね」

と9号がいった。

「民族的な、パワーを甘く見ては、いけないんだよ。沖縄に対して、何をやっても良いだろうと、思っているとしたら、大きな間違いだ。 沖縄県民の痛みは、理解出来ると、口先ばかりで、アメリカに立ち向かえば、結局アメリカの希望通りにしてしまう。 そんな、本土の裏切りは、今に始まったことではない。結局のところ、辺野古を埋め立てて、新しい滑走路を造って、そこを米軍基地にする。もう、ミエミエの答えだ。沖縄県民を侮っているとしか思えない。 だったら、最後のカードを切るしかない。独立して、日本とも、アメリカとも縁を切る。だからといって、中国と結ぶと言う答えではない。琉球国独自の路線を取る。憲法には、軍備を持たないという考えは入れない。自分たちの国は、自分たちで守るということだ。確りと空母を造船して、搭載機も乗せる。 歯を食いしばってでも、琉球共和国の軍隊を造っていく。 二度と他国の軍隊に琉球の土地を、蹂躙させないと言う考えを、琉球国民が持つことだ。東シナ海には、化石資源があることは、調査済みだ。これを、中国に、奪われないように、決然とした姿勢を示すことだ。 中国は、経済復興を遂げたように、言っているが、内陸部では、不平不満が、渦を巻いている。 内陸部は、依前として、貧しい状況が続いている。複雑な状況だ。中国のブラフに負けないことだ。 そのための特殊部隊を造る。我々にしかできないことだ。秀建氏に、そのことをいずれは、伝えたい」

とR1号が、全員に言った。

「はい」

と全員が、答えた。

この、グループの『目的』が、明確に、見えてくるような、場面であった。


         *


「どうしても、判らないことがありますね」

と白井が渡部に言った。

「何が?」

「なんで、被害者の死体にあんな、爆発物を入れたのか? 司法解剖をする医師たちに、怨でもあったのか?」

「違うだろう。誰でも良かったのではないのか?」

「と言うと、渡部さんの考えは?」

「白井は、二人の遺棄死体を、ダイイングメッセージだといっていたな」

「はい」

「グループの敵対グループに、二人の死を、徹底的に、しかも、大々的に、残酷な方法で、告知するのが、目的のような気がするがな・・・」

「そのために、あんな残酷な方法を、用いる必要が、あったのですかね?」

「グループ同士の抗争が、それだけ激化してしていた、と言うことではないのかな」

「グループというのは、暴力団ですか?」

「それもあるだろうが、過激派ということも、考えられる。公安も動いているそうだ。勿論、マル暴も動いている。どんな、グループなのかは、我々には判らないがな」

「それにしても、ダイイングメッセージだとしたら、過激な、メッセージだ」

「恐らく、司法解剖するときに、腹を縫った、糸を、切ることは、計算すみだったはずだ。その上で、糸を切ったら、手榴弾のピンが、バネで外れるように、してあったということだ。そんなことをすれば、大騒ぎになるというのは、計算済みのことだろう。こんな事件は、誰も経験していない」

「まるで、テロリストの手口のようです」

「ようではなくて、テロリストが、噛んでいる気がするな」

「やはり、そう思いますか」

「捜査員は、全員、その可能性を、感じているのではないのかな」

「日本は、他の国よりも、テロリストへの、対策が、甘いですものね」

「む。そこを衝かれた感じはあるな」

「正直にいって、あの爆発に関しては、まるで、糸口が掴めません」

「同じだよ・・・公安以外では、そういうグループの情報は皆無だ。残念ながらな。日本の警察の最大の弱点だよ。スパイ組織がある訳ではないしな。自衛隊や、内閣調査室には、それらしい組織があるといっても、戦前の中野学校のような、専門の養成機関あるわけでもない。日本は、本当にスパイ天国だろうよ」

「今後は、そういう、専門の組織が、必要ですね」

「そうではあっても、それは、上が考えることだし、法整備の改正も、必要になってくるだろう。我々では、どうにもならないことだよ」

「何だか、世界が、以前とは異なってきて、局地戦的な、感じになってきているような気がしてなりません」

「確かにな。かつての、東西冷戦構造とは、大きく異なって、民族と、宗教が絡まって、局地戦的になっている。大衆の中に、兵士が紛れ込んで、テロを行うという感じで、テロリストを、発見するのは容易ではなくなってきている。その波が、日本にも押し寄せてきている感じだ」

「いままでは、日本は、テロとは関係ない、といっていられたような所がありましたけど、段々、そうも言って、いられなくなって、来たような気がします」

「そうなって来ると、警察の捜査の仕方も、大きく変貌してくるな。付いていくのが大変だな」

と、渡部が首を振った。

二人は、聞き込み捜査の範囲を、伊東市の、南端の赤沢の別荘地にまで、広げて、空き別荘などを、捜査するようになってきていた。

しかし、捜査をしながら、

「伊東市だけを捜査していても、始まらない感じがするな」

と渡部がいったりした。

被害者は、飛んでもない遠方から、運ばれてきた気がするのであった。

広域犯罪である思いがしたが、確証がある訳ではなかった。証拠を示さない限り、

捜査本部の上層部は、納得はしてくれなかった。

「管内を、徹底して捜査しろ」

というのが、上層部の考え方であった。

それと言うのも、所轄別の縦割り行政の、弊害であった。

管轄外での捜査というのは、何かと、面倒な手続きが必要であったし、所轄同

士の、縄張り意識もあったので、どうしても、管轄外捜査というのは、やり難い面が、多々あったのである。

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