その瞬間は、善だと信じている

ロバート・マッキーの『ストーリー』という本を読んだ。映画の脚本術に関して書かれた本だ。


そのなかに、こんな一節があった。


「男が路上で鈍器を使って通行人を殴り殺し、財布から5ドルを盗む。それが道徳的ではないことは男も理解しているだろうが、「道徳/不道徳」、「正/不正」、「合法/違法」のあいだには相互の関係がないことが多い。男は自分がしたことをすぐに後悔するかもしれない。だが、殺害の瞬間には、男の視点から見てそれは正しい選択だったはずだ。そうでなければ、腕が動くわけがない」


どんな犯罪でも、それを行う瞬間は「善」であると信じている、ということだ。


これは犯罪以外でも同じことが言える。怠惰、散財、色欲、麻薬など。身近な例をあげれば、酒が身体に悪いことは酒飲みもよく知っているが、飲む瞬間は、酒が「悪」だなどと微塵も思っていない。


人間は自分が「善」だと感じる行動を取るようにできている。これが著者の主張だ。


人間に対する鋭い考察で、フィクションで「悪」というものを考えるとき参考になる。


それだけでなく、現実においても有用だ。


自分自身に当てはめてみても、誘惑に負けてしまうとき、それが「善」だと信じている。たとえ客観的には「悪」だとわかっていても。


あのとき、なぜ自分はあんなことをしてしまったのか?


そして「善」だと思ったからには、そう信じるに足る理由があったはずだ。


自分自身の問題点を探ろうとするときも、この考えは役立つだろう。

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