トイレの個室でしか用を足せない理由

姫呂は男性だが、公共のトイレを使うとき、ほとんど個室で用を足している。小便器は使わない。開けた場所では尿が出ないからだ。


これは鬱病と不安障害のうち、後者の側面が大きい。鬱を発症するまえから、上記のような状態だったので、まちがいないだろう。個室以外では不安が高まり、緊張してしまう。そのせいで用を足せないのだ。


普通の人には、なぜトイレで緊張するのかわからないかもしれない。それは人間の、動物としての本能が関係している。人間は弱い生き物だ。そのため、無防備な場所では脳が警戒信号を発し、身体が緊張状態になる。そして言うまでもなく、トイレで用を足しているあいだは無防備だ。


もちろん、普通は用を足せないほど緊張したりはしない。トイレで事件に巻き込まれる可能性は低いと、誰もが理解しているからだ。しかし不安障害は、普通の人よりも不安を強く感じる障害なのである。脳による危険信号が過剰に働いてしまうのだ。


無理に小便器でしようとすると、両脚にしびれが走る。これも脳が「逃げろ」と信号を発することで起こる症状だ。


しかし、個室ならばそう易々と侵入できない。比較的、安心していられる。こういった理由で、トイレは個室を使うことになる。


その一方で、姫呂は1日に何度もトイレに行く。こちらは鬱病に伴う、自律神経の異常という側面が大きい。一度トイレに行ってきても、またすぐに尿意を催すことがよくある。しかも、この尿意を放っておくと、膀胱に痛みが走るようになる。


起きているあいだはマシだが、寝ているときは自然と尿意を無視することになるため、だんだん膀胱が痛くなってくる。そして早朝あたりに限界に達して、中途覚醒してしまう。これが毎日起こる。


トイレ周りはつらいことばかりで、いかに自分の身体がスクラップなのか、思い知らされる。

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