第12話
太一はゆうを抱きしめると言いました。
「すまない。俺が悪かった。でも、俺はゆうを捨てたわけじゃない。あの時、誰も外に残るとは言わなかった。このままでは、村は戦に飲み込まれてしまう。
俺はどんなことをしても、おまえを守りたかった。俺の命と引き替えにしても、おまえを守りたかったんだ。
でも、俺が間違っていた。将来のことを思い悩むより、たとえわずかな時間だったとしても、おまえといっしょにいることを選べばよかった。ゆう、許してくれ。」
ゆうはため息をつきました。
「そんなこと、ひとことも言ってくれなかったじゃない。」
ゆうは太一のほほに手をふれると、にっこりとほほえみました。そして、ゆっくりと目を閉じたかと思うと、柔らかな金色の光に包まれて、霧が風に吹かれるように消えてしまいました。
太一が呆然としていると、空からゆっくりと仏頭がおりてきました。
「私は神などではない。村はずれに生えていた栗の木の精だ。私は、私を慕ってくれた村人たちを守りたかった。それで、神様にお願いしたのだ。私は成仏しなくてもよい。だから、村人たちを守る力をくださいと。
神様は、そんなことをしても村人たちは喜ぶまいと、うんと言ってはくださらなかった。
でも、あまりに私がなんべんもお願いしたので、私にある力を与えてくださった。
それは、村を結界で囲って時の流れの外に置く力だった。もちろん、時の理(ことわり)の外にいるのだから、その間は歳をとることもない。
村人たちがほんの数日と思っている間に何年も時がたって、戦が終わっているはずだった。こんなことになるなどとは、思いもしなかった。」
「私が間違っていたのだろうか。」
仏頭は何度もそうつぶやいていましたが、やがてゆっくりと崩れて、一握りの灰になってしまいました。
太一は我に返ると、落ちていたカマを首に当てて言いました。
「ゆう、俺もおまえのところに行くぞ。」
その時、どこからともなく声が聞こえてきました。
「死んではいけない。もはやおまえは、あの娘と同じ時を生きてはいないのだから。
おまえは既に何度も生まれ変わり、今はヨシオになっている。この記憶も、目を覚ませば消えてしまうのだ。」
太一はあたりを見回しましたが、誰もいません。その声は頭の中に響いているのでした。
「あなたが神様か。」
太一は空をにらみつけました。
「みんなよかれと思ってしたことなのに。もしも、こうなることがわかっていてそのままにしておいたというのなら、神様、あなたは残酷だ。」
そう叫ぶと、太一は力尽きて倒れてしまいました。
薄れゆく意識の中で、太一は声を聞きました。
「嘆くことはない。あの娘は自分の生を全うするために、己の時に帰っていったのだ。」
太一の目から涙がこぼれ落ち、そのまま何も分からなくなりました。
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