第11話
ヨシオはゆっくりと村に向かって歩いていきました。ところが、なんだか様子が変です。家々はひどく荒れ果てていて、人っ子一人見あたりません。
「おーい、誰かいませんか。」
ヨシオが大声で叫ぶと、一人の娘がよろよろと出てきました。
「あなた、外から来たのね。ああ、やっと村は解放されたんだわ。」
娘はヨシオを見てそうつぶやくと、ゆっくりと地面に倒れました。
ヨシオが娘に駆け寄ろうとすると、不思議なことが起こりました。ヨシオの顔かたちが変わっていき、身なりも夢で見た村人のようになりました。
そして、そこにいたのは太一だったのです。
太一は娘を抱きかかえると大声で言いました。
「ゆう。大丈夫か。俺だ、太一だ。いったい何があった。」
娘はうっすらと目を開けると、小さな声で言いました。
「ああ、太一。太一なのね。帰ってきてくれたのね。」
「ゆう、いったい何があったんだ。他のみんなはどこへ行ったんだ。」
太一の問いかけに、ゆうは目をつぶり、ふるえながら答えました。
「みんないなくなってしまった。みんな、みんないなくなってしまった。
神様の仰ったとおり、村は戦に合わずにすんで、平和な暮らしが戻ったわ。でも年月がたつうちに、みんなだんだんイヤになってきてしまったの。
誰も外から入ってこない。誰も外に出て行けない。平和かもしれないけれど、いつまでたっても同じ毎日の繰り返し。そんな暮らしに嫌気がさしてしまったの。
村には何年たっても、新しい子どもが生まれなかった。いつまでたっても、みんなの顔には、新しいしわもできず、白髪も増えなかった。
まるで私たちは歳をとらないみたいに。
そして私たちは恐ろしいことに気づいてしまったの。
誰も死なず誰も生まれてこない。未来永劫、同じ顔ぶれのままで、同じ毎日を繰り返さなければいけないんじゃないかって。
そして、私たちを捨てた太一の方が正しかったんじゃないかって。」
「しばらくの間は、もうじき神様が出してくれるだろうって、みんな辛抱していたわ。でも、だんだん年月がたつと、みんな怖くなってきて神様を待っていられなくなってきたの。 それでも、村長さんを中心とした年かさの人たちは、村を出ることはできないのだから神様を待とうって言ったの。でも若者たちは、もう待てない、すぐにでも出ていくと言って、村長さんの言うことに耳を貸さなかった。
やがて村人はまっぷたつに別れて、お互いに口も聞かなくなってしまい、とうとうある晩のこと、若者たちは村長さんたちを襲った。そしてみんなを縛り上げて広場に引き出すと、今から村を出て行くと宣言したの。村長さんたちは口々にやめろと言ったけれど、振り向きもしないで、村を出て行ってしまった。子どもたちも、みんなついて行ってしまった。そして、だれも戻ってこなかった。
それ以来、村には若者がいなくなり、子どもたちの笑い声も聞こえなくなって、村長さんと同じ年頃の人ばかりになってしまったから、よけいに村の暮らしは耐え難くなってしまった。そして、残された人たちも、一人、また一人と村を出て行って、とうとう私だけになってしまった。
でも私は、どんなことを言われても、太一が守ってくれたこの村を、出て行こうとは思えなかったのよ。
それから、私は一人きりで暮らしてきたの。もう、どのくらい時が過ぎたのかもわからないわ。
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