第10話

 そして今、ヨシオは深い山奥を、仏頭を背に歩いているのでした。

 ヨシオは夢で見たとおりに、一心に山の中を歩いていきました。そして何日かたったある日のこと、突然目の前が開けたのです。

 でも、そこには村はなく、霧の立ちこめる谷間があるばかりでした。

「あれ、道を間違えたかな。」

ヨシオが立ちつくしていると、頭の中に声が響いてきました。

「ああ、帰ってきた。とうとう帰ってきた。」

ヨシオはあわててリュックサックをおろすと、仏頭を地面に置きました。

「よくぞ、ここまで運んでくれた。礼を言う。

 それにしても、そなたが運んでくれたとは、縁とは不思議なものであることよ。だが、そなたとめぐり会えたことを喜んではいられない。もう、私にはあまり時が残されてはおらぬ。早く結界を開けて、村を解放してやらねば。」

 そう言うと、仏頭はゆっくりと宙に浮かび、やがて空高く舞い上がりました。

 すると、谷の四方から光の壁が仏頭目がけて立ち上がり、四方の壁の頂上が仏頭に届いたかと思うと、そこに光でできた巨大な仏像の上半身がそびえ立ちました。そして、ヨシオが思わず目をつぶってしまうほど、まばゆく輝いたのです。

 次の瞬間、仏像は形を失い光の砂でできた柱のようになりました。そして静かに崩れていき、あたり一面に金色の霧がひろがりました。やがて霧はゆっくりと薄れていき、そして夢に出てきたあの村が現れました。

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