第9話

 「帰りたい。帰らねば。」

 夢の中で、ヨシオはいつものように、どことも知れぬ山の中を歩いていました。

 すると、突然目の前が開けて畑がひろがり、その向こうに村が見えてきました。人々は時代劇のような格好をしています。

 それは、なぜか、どこかで見たことのあるような風景でした。

ヨシオが歩いていくと、村人たちが手を振っています。

「とうとう帰ってきた。」

心の底からうれしさがこみ上げてきます。

 ヨシオは村の中へと歩いていきました。はじめはゆっくりと、段々足早に。

 不思議なことに、村人たちはヨシオのことを知っているようです。ヨシオも一人一人の顔に見覚えがあるように思えてきました。

 ヨシオは、とうとう走り出しました。

 通りを歩いている、娘の後ろ姿が見えます。

「あれは、きっと・・・。」

娘が振り向いてほほえんだ瞬間に、ヨシオは目が覚めました。

 仏頭は、地図のある場所を示していました。

「とうとう、見つけた。」

ヨシオが地図の上にかがみ込むと、ぽたりぽたりと水滴が落ちました。あわてて顔をぬぐうと、濡れています。

「僕は、泣いているのか。」

ヨシオは呆然としました。

「それじゃあ、あれは君が見せた夢じゃなくて、僕が見たものなのか。」

仏頭は、何も答えませんでした。

 ヨシオはあらためて地図を調べて、ため息をつきました。そこは、とんでもない山の中で、道らしい道もないようです。ヨシオは仏頭に言いました。

「やっと場所はわかったみたいだけど、今頃は深い雪の中だ。春どころか夏になるまで待たなくちゃ。でも、必ず連れて行ってあげるからね。」

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