第8話
ヨシオは家に帰ると、仏頭をもう一度よく調べてみました。黒く焦げてはいますが、よく見ると優しい顔立ちをしています。ヨシオは何となく自分のことを見守ってもらえそうな気がして、仏頭を本棚の上に置くことにしました。
ところが、その夜からヨシオは不思議な夢を見るようになったのです。
夢の中で、ヨシオはどことも知れぬ山の中を、
「帰りたい。帰らねば。」
とつぶやきながら、あてもなく歩いているのです。
あまり何回も同じ夢を見るので、さすがに不思議に思いました。そこで、ヨシオは仏頭に向かって
「あの夢は君が見せているのかな?このままじゃあ寝不足になってしまう。悪いけど向こうを向いてくれないかな。」
そう言うと、仏頭をくるりと後ろに向けました。
その夜、ヨシオはまた同じ夢を見ました。でも夢の中の声が、少しだけ強くなったような気がしました。
「もしかしたら、顔の向いている方角で、声の強さが変わるのかもしれない。もしそうだとしたら、仏頭の帰りたがっている場所が分かるかもしれない。」
その夜から、ヨシオは仏頭の向きを少しずつ変えてみることにしました。最初は東西南北に向きを変えてみましたが、角度が大きすぎるのか、声の変化が分かりません。仕方がないので、北から時計回りに少しずつ向きを変えてみることにしました。
でも、何しろ夢の中のことです。本当に声の大きさが違ったのかどうかを確かめるには、何度もその方角の前後で向きを変えてみなければなりません。一カ月ほどかかって、やっと真北からわずかに東よりの方角が、一番声が強いことがわかりました。
ヨシオは、今度は地図を買ってきました。最初は東日本全体が載っている大きな地図です。床の上に地図を拡げると、ヨシオはその上に仏頭を置いて話しかけました。
「僕は君を、君の行きたいところに連れて行ってあげたい。この地図の上を少しずつ動かしていくから、君の行きたい場所を教えてほしい。」
その夜から、仏頭を地図の上で少しずつ、あの方角に動かすことにしました。その場所に近づくほど声が大きくなっていくはずですし、行きすぎたら声が小さくなるはずです。ただ、仏頭は人間の頭ほどもあるので、大きな縮尺の地図では大まかな場所しかわかりません。正確な場所を知るためには、だんだん地図の縮尺を小さくして、例えば日本地図から県の地図、県の地図から市町村の地図、市町村全体の地図から何丁目の部分だけを拡大した地図といった具合に、正確な場所を突きとめなければなりません。
半年近くたち、地図を何十枚も使って、やっと東北地方のある山奥まで絞り込んだ夜のことです。ヨシオはいつもとは違った夢を見ました。
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