第2話

 村人たちは、お坊さんがすぐにも仏像を彫り始めるものだと思っていました。ところが、お坊さんは丸太を前にして座禅を組み、目をつぶったままです。たまに立ち上がったかと思っても、村を歩き回ったりするばかりで、いっこうに鑿をふるう様子がありません。

 ある時、小さな子供がお坊さんに言いました。

「なあ、坊様は仏様を彫るんではないのか。なぜいつも目をつぶっているばかりで、何もせんのか」

お坊さんは笑って答えました。

「坊や、わしはの、仏様を彫るのではない。仏様を木の中から出して差し上げるのじゃ。じゃが、まだわしにはこの木の中の仏様が見えんのじゃ。そこで仏様が見えるように、一生懸命にお祈りしているんじゃよ。」

子供が不満げな顔をしていると、お坊さんは笑いながら

「坊やには、ちとむずかしすぎるかの。そのうちわかるでの。もう少し辛抱しておくれ。」

と言いました。

 そのまま半月近くたった頃には、村人たちもあきれてしまい、最初のうちはなけなしの米で作ったおかゆを持って行ったりしていたのですが、だんだん粗末な食事しか出さなくなりました。

「なあ、もうじき祠の方が先にできてしまうぞ。あの坊様は、ほんとに作る気があるんだろうか。まさか、食べ物目当てでうそをついたんじゃあるまいな。」

 お坊様は食事が粗末になっても何も文句も言わずに、ただ丸太の前で座禅を組むばかりでした。

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