銀の髭、黄金の眼

遠影此方

第0話 はじまり


 鬱蒼とした暗く深い森の中、その暗闇の中に、炎は赤く燃えている。


 薪の弾ける音と共に、火の粉を虚空に向けて散らしてゆく。


 二人はそれを囲んで座り、その背から影が伸びる。


 一人は大きく、影は木々の影に紛れて見えない。


 もう一人は小さく、その影はゆらゆらと揺れて定まらない。


 大きい影が口を開く。争いの話をしよう。お前がまだ生まれていないときに起こった、百年にも渡る争いのことを。


 そうして大きな影が語りだすと、それまで動いていた小さな影は動くのをやめた。大きな影は語る。小さな影の知らない昔話を。今もなお爪痕の残る大地に思いを馳せて。


 始めのうちは熱心に聴いているのだろう、小さな影は身じろぎ一つしなかった。しかし時間が経つにつれ、小さな影はまた小さく揺らぎ始める。


 大きな影は気付かぬままに話を続けて、しばらく経ってからようやく気付いて溜め息をつく。まだ半分も話していない、そうぼやいてから、寄って行き、小さな影を横たえさせる。そして自らの上着を脱いで、被せてやる。


 すると、それまで隠していた大きな影の姿が、ありありと炎に照らし出された。


全身毛むくじゃらの姿は獣のようであり、太い尾は虎を思わせる。


 しかし、頭頂から生えた一対の耳は尖っていて、物音を探っているのか、ときおり動く。


大きな影は上着から離れて、元居た場所に戻り、座り込む。


そして、揺らめく炎を眺めながら、周囲の音にときおり耳を動かしていた。

 

 

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