風が、やわらかくなってくる
春休みを終えて久しぶりに登校した。1学期の初日だけど図書室は開けるので図書委員であるわたし、浅井紺乃は放課後図書室に向かう。着いたらまず図書室の窓を開けて空気を入れ替える。司書の先生がたまに空気の入れ替えはしてくれていたらしいけど、それでも少し埃っぽかった空気が春らしいやわらかな風で入れ替わる。
図書室を開けてしばらくすると春休み中に本を借りていた人たちがパラパラと返しに来て、また借りていく。その流れも2時間もしない内に途絶えて、一気に暇になる。のんびり掃除をしたり本の修繕をしている内に図書室を閉める時間になった。先に帰ったはずの双子の藍乃はどうしているだろうか。お昼は適当に買って帰ると言っていたけれど。帰りの準備をしてスマホを見るとバイト先の先輩とごはんに行くと連絡が来ていた。マジか。
わたしはどうしようかな~と図書室を施錠していると
「浅井さん」
と、聞きなれた声がした。
「京極くん。どうしたの、こんな時間まで」
「浅井さんを待ってた。そう連絡したけど」
「来てないよ?」
京極くんは訝し気にスマホを確認して青ざめた。
「妹に送ってた……」
「あらー……」
彼に妹がいるのは聞いていた。たしか中学三年生だっただろうか。京極くんは青い顔のまま
「ヤバい、めっちゃからかわれる……いじられる……」
とつぶやいている。お互い年頃だけどそういうやり取りはあるんだな、とちょっとおもしろかった。
「それで、なんで待ってたの?」
「良かったら一緒に駅前のマップ行きたくて」
「いいね。行こう行こう」
そして2人で並んで学校を出る。こういう時にからかわれなくなったのは周囲も大人になってきたからだろうか。京極くんとたわいもない話をのんびりしながら歩く。学年が上がっても変わり映えしないクラスの顔ぶれ、やけに張り切って受験についてプレッシャーをかけたがる担任、誰が進学で、どんな大学で、そんな話。
いっしょにマップでハンバーガーやらポテトやらをつまみながらする話の内容も同じようなものだ。友達とはちょっと違う見方とか、藍とは違うわたしと異なる意見とか。悪くないと思う。いや、そんな言い方は失礼だな。すごくいいと思った。
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