街も森も天然色になっていく
さて高校三年生になった。久しぶりに学校に着て、友達と挨拶を交わして席に着く。クラスは持ち上がりで顔ぶれに変わりはない。相変わらず双子の紺乃は隣のクラスだし紺に思いを寄せる京極伊澄は同じクラスだ。今まで特に会話をしたことはなく(彼がわたしと間違えて相談したのは入れ替わっていた紺だ)これからも特にその予定はない。
代り映えのないホームルームを受けて、受験に向けての心構えを説教されて聞き流す。不安をあおるだけの説教など聞きたくない。紺は今日から図書委員の仕事があるそうなので先に学校を出ることにして校門に向かうと何やら手前で騒いでいる女の子たちがいる。気になりつつも横を通り過ぎて門を抜ける。
「浅井さん」
「い、井口さん!?」
校門のところでバイト先の先輩である井口さんがわたしを呼び止めた。大学生である井口さんが何故ここに? っていうかさっきの女の子たちが騒いでたのは大学生がいたからか。
「いきなりごめんね。これ、この間忘れて行ったでしょ」
そう言って差し出されたのはわたしのペンケースだった。
「え、これ」
「ゼミ室にあってさ。浅井さんが使ってたの見たって友達が行ってたから」
「ありがとうございます! すみません、わざわざ……」
ペンケースを受け取り並んで歩きだす。井口さんはこれから学校なのかバイトなのか。なにか話をしたいけど、なにを話せばいいのかちっとも思いつかない。
「浅井さんはこの後用事ある?」
「いえ、ないです。まっすぐ帰るつもりです」
「良かったら少し出かけない? あ、親御さんに連絡したほうがいいね」
「行きます! 親は今日は留守なので大丈夫です。外で食べることだけ伝えておきます」
「それがいい」
それから学校の最寄り駅で電車に乗る。一旦家に寄ってもらって着替えてからまた電車に乗り、大きめのターミナル駅で降りて駅ビルの中にあるカフェに入った。
「付き合ってくれてありがとう。ここに来たかったんだ」
そういう井口さんが見せてくれたメニュー表には『カップル限定ビッグパフェ』と書いてあった。……カップル!?
「これが食べたくて、でも一人だと出してくれないしね。俺一人でほとんど食べられると思うけど食べたければ一緒に食べよう。他に食べたいものがあれば頼んで。俺が誘ったから支払いは持つよ」
「ありがとうございます。でも昼食代は親からもらってますから自分で出します。……パフェ、少しだけください」
「わかった。でも少しと言わず好きなだけ食べていいよ」
そして注文をしてパフェとオムライスが来た。……大きい。本当にビッグなパフェだ。しかし井口さんはめっちゃ笑顔ですごいスピードで食べていた。正直どこに吸い込んでいるんだろうな???? ってくらいの速度で食べている。わたしがオムライスを完食する頃には7割ほどなくなっていた。
「あ、ごめん。つい嬉しくてほとんど食べちゃった……」
「お気になさらず。井口さん、めっちゃ食べるんですね」
「甘いもの好きでね。だから付き合ってくれて嬉しいよ」
「わたしで良ければいくらでも付き合いますよ」
社交辞令でなく言う。見ているだけで気分がよくなるような、いっそすがすがしいまでの食べっぷりだった。
「ほんとに!? ありがとう。じゃあこれなんだけど……」
井口さんは目を輝かせていそいそとなにかのチラシを取り出す。……スウィーツバイキング? 井口さんがテンション高めに説明を始める。わたしは吹き出しそうになりつつ、目の前の可愛い人の話に耳を傾ける。
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