なんでも頭にフレッシュつけりゃあいいってもんじゃない
今わたしは友人二人からそれぞれお互いに対するのろけなんだか相談なんだか? みたいな話をされている。
わたし、未吉香は歴史研究職である。専門とする時代の文章の解読や、当時の物資の研究なんかをしている。その関係で出版系の人から時代考証を頼まれることがある。よく頼ってくる南雲くんは大学の時からの付き合いだ。なんで知り合ったかはもはや忘れたけど面倒見のいい男で仕事関係ではこちらが提供することが多いけど、それは恩返しのようなものだ。そして南雲くんに揺れているのが中学高校のときに同じ学校で今は一緒に住んでいる西浜景である。
景は1年くらい前に当時付き合っていた彼氏と別れてうちにやってきた。最初は彼氏から離れるために引っ越して引き続き一人暮らしをすると言っていたけど、なんか放っておけなくてうちに来てもらった。それからわたしの苦手な家事全般をやってもらう代わりに家賃は格安、それ以外もわたしが多めに持つことで持ちつもたれつやっている。
そんな経緯でやってきた景だから来てすぐは暗い顔をしていることが多かった。しょんぼりじゃないけど、やつれているというか、すさんでいるというか。とにかく疲れているようだった。それから半年くらいして転職して少し明るくなってきた。ホッとしていたら、ある日困ったようで嬉しさを隠しきれない顔で帰ってきた。
「なんかカレー喜ばれた」
最初は意味がわからなかったけど、詳しく聞いて納得する。それはきっと景の自尊心を回復するきっかけになったんだと思う。それからそのカレーくん(笑)が南雲くんだと判明して、いろいろあって、景はずいぶん南雲くんに惹かれているようだ。南雲くんにもらったというクッキーやらマカロンやらのお菓子の詰め合わせを大事に大事に食べている。
南雲くんからは景の様子を伺う連絡がたまにある。だから見たままを答えている。
『南雲くんにもらったお菓子、大事に食べてるよ。おいしいってさ』
景からは誰かになにかしてもらうって嬉しいね。南雲さん、いい人だね、というつぶやきを聞かされている。南雲くんのことを良い人だと認識しつつはあるみたいだけど、まだそこまではいかないのだろう。それでいいと思う。
ただただ、わたしの大事な友人二人が幸せに生きてくれればいいと思う。
「香! お風呂から出たら体拭いて! まだまだ寒いんだから!」
そう怒ったふりをする景に
「新作のアイス食べよ。フレッシュマロンだって」
と話を逸らすと
「春にフレッシュマロン????」
景が笑った。
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