新しい人に出会う、新しい自分

 さて、西浜景は今日も今日とて仕事である。今日は浅井先生他、担当している先生方のお宅に何件か伺い、帰社してから自分の仕事をする予定だ。さっそく浅井先生のお宅に伺うと彼女は笑顔で原稿のデータと気になった点をあれこれ話してくれる。説明は分かりやすくて丁寧だ。


「そういえば南雲くんとはどう?」


「え、どうとは?」


「カレーもらったってはしゃいでたわよ」


「あー、そうですね。先日差し上げましたね。そんなに喜ばれてましたか」


「ええ。余程カレーが好きなのね」


 仕事中にはしゃぐほど喜ばれたのは嬉しいけど少し照れる。そんなにか~~~? みたいな。でもそれだけ美味しく食べてくれたのなら、また頑張ろうかなと思う。


「私もまた食べたいわね」


「カレーですか?」


「うん。西浜さんのカレー美味しかったから。元気が出たわ」


「そう、ですか」


「それにね、私はいつも家族にごはんを用意してるけど誰かに作ってもらうことってないのよね。だからたまに誰かに作ってもらうとすごく嬉しい」


「そういうものですか」


「そうよ。だから西浜さんも今度南雲くんに作ってもらうといいわ。誰かが自分のために用意してくれたごはん、おいしいから」


 それは考えたこともなかった。いつもわたしは誰かに作ってばかりだった。元カレの時も。今も一緒に住んでる未吉香やその他の人に提供する側で。自分が与えられる立場なんて考えていなかったけど。


「ちょっと考えてみます」


 浅井先生は笑顔で頷いてくれた。




 その後も何件か回って帰社する。と、会社の最寄り駅で南雲さんに会った。これはどういう偶然だろうか。


「こんにちは西浜さん。今少しいいですか?」


「はい。珍しいですね、こんなところで」


「ちょっと用があって待ち伏せしちゃいました。きもかったらごめんなさい。これ、お返ししようと思って」


 そう手渡されたのはお弁当を入れるバッグだろうか?


「中身は先日カレーを入れていただいた容器です。そこにおやつを入れてあるので良かったら召し上がってください」


「え、もしかして手作りですか?」


 南雲さんは少し照れたように笑ってから頷いた。


「ええ。手作りのお返しなので手作りにしてみました。西浜さんのカレーほどおいしくはないかもなんですけど、そこまでひどくもないので是非」


「ありがとう、ございます」


 嬉しかった。すごく、嬉しかった。ちょっと涙が出そうになったのを俯いてこらえる。


「あの、連絡先教えていただいてもいいですか」


「もちろんです」


 南雲さんと連絡先を交換してもう一度お礼を言って別れた。会社に戻って各所にメールを出しつつ容器を開けるとかわいいクッキーやチョコなんかが何種類か入っている。


「……」


 思わず写真を撮って、それから口に運ぶ。すごく、おいしかった。それ以上食べると涙が止まらなくなりそうなので丁寧に片づけて仕事に戻る。軽くなった心でお礼の文章を考えた。

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