暖房と冷房の間

 今日はバイト先の先輩、井口さんの通う大学に双子の紺乃と一緒に見学に行く。家からはそこそこ近くて通いやすいし、都市部と逆方向なのも好都合だ。朝も帰りも電車が混まない。


 大学について待ち合わせの食堂に向かう。構内は広くて高校とは大違いだ。2人できょろきょろしながら食堂を探していると中庭で大道芸の練習をしている人がいた。いろいろあるんだなと紺と顔を見合わせる。


「こっちだよ」


 食堂についてまたもきょろきょろしていると井口さんが先に見つけて手を振ってくれた。小走りで近づくと井口さんがついていたテーブルには他にも何人か座っている。


「お待たせしました」


「とんでもない。迎えに行かなくてごめんね。この人たちは俺と同じゼミの人。人が多い方が聞きたいこと聞けるかと思って」


「お気遣いありがとうございます。こっちは双子の紺乃です」


「よ、よろしくお願いします」


 紺は多少緊張しているのかぎくしゃくと挨拶をしている。それからゼミの人たちも簡単に自己紹介をしてくれて、大学の構内図を出してくれた。大体の位置や建物の説明をしてもらってから散策に行くことにする。


「じゃあ、一通り見たらゼミ室行くよ」


 井口さんがそう言ってゼミの人たちは「またねー」と手を振って去って行った。構内図を見ながら一通りの建物や施設を案内してもらう。


「大学って広いんですね」


「そうだね。たくさんの人が集まるし、いろんな施設も入ってる。ここは学校だけど研究機関でもあるから」


 なるほど、と見渡すと確かに研究室、実験室といった看板がいくつか出ている。紺もきょろきょろしながらあれこれ聞いていて、一緒に来て良かったと胸をなでおろした。


 ここの大学は理系の学部が多い。政治経済系、生物、化学、あとは井口さんが所属している情報系だ。そして政治経済系のカリキュラムの中でなぜか司書課程を取ることができる。確か政治と文化発展の関係は切り離せないとかそんな感じの理由だ。だからわたしの選択肢としてここは結構アリだ。家から近くて取りたい資格が取れて、あとはまあ知り合いもいる。見て回った感じ雰囲気もいいし広々としていて過ごしやすそうだ。


「じゃあそろそろ行こうか」


「ゼミ室、ですか」


「うん。といっても担当の教授の研究室なんだけどね。まあだいたいゼミはそうだよ。教授か准教授の部屋に集まってあれこれする」


 それを聞きながらゼミ室なる部屋に向かう。ついた部屋はこじんまりしていて物でいっぱいだ。壁は両脇が本棚になっていて中身はみっちり詰まっている。部屋の真ん中には長机が2つ長い辺をくっつけて置いてあって両側で先ほど会った人たちがパソコンを叩いている。


「ただいま」


「おかえりー」


 そこでまたあれこれ聞いて教えてもらったり、大学選びのポイントなんかを教えてもらった。


「ではそろそろお暇しますね」


「うん。今日は楽しんでくれたかな。あまりゆっくりしてもらえなかったけど、もう少ししたら体育祭とか秋になれば学際もあるからまた見においで」


「ありがとうございます」


 紺と2人で頭を下げて部屋を後にする。井口さんは送ってあげたいけど、と口を曲げてこの後教授に呼ばれてて席を外せないのだということだった。


「紺、どうだった?」


 歩きながら隣の紺に聞く。


「実際見るとなんかリアリティあった」


 紺は難しい顔で言う。


「ねえ藍。学校始まったら一緒に進路指導室行こうか」


「進路指導室? ……うん。行く。誘ってくれてありがと」


 そしてまた2人で並んで帰る。

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