手袋忘れた、でも大丈夫
遠くから降られる手に手袋がないなと思う。もうそんな時期だ。
今日は浅井紺乃さんとのデートである。そう呼称しても怒られなければ、だけど。
「京極君、お、おはよう」
「おはよ。そんなに走らなくても大丈夫だよ」
息も絶え絶えに挨拶をする浅井さんがかわいい。でも肩で息をするほど走らなくても、と心配にもなる。
「いや待たせちゃったかなって」
「ううん、大丈夫。俺が浅井さんと出かけられるの嬉しくて早く来過ぎたから」
「そうなの?」
「うん。30分前くらいから待ってた」
「え」
浅井さんがびっくりした顔になる。図書室にいるときはクールビューティなのに、それ以外だと表情がコロコロ変わるのがかわいい。それが面白くてついついいろいろ話してみたくなってしまう。
「どこかカフェとかで温かいものとか飲む?」
「いや、大丈夫だよ。カフェ行くなら本屋の後がいいな」
「そうだね。じゃあ行こうか」
今日の目的地は少し離れた場所にある大きな本屋だ。浅井さんのご両親がたまに行っては大量の本を抱えて帰ってくるらしい。浅井さん自身はあまり行ったことがないので、この機会に、ということだった。
本屋に向かうには待ち合わせたターミナル駅から少し電車で移動する。好きな子と並んで電車とか、めっちゃ青春ぽくってドキドキする。車内がそこそこ混んでいるから吊革に捕まって並んでいるだけで肩が触れそうになる。つーか浅井さんめっちゃ小さいんだなって立って並んでやっと気が付いた。細身だとは思っていたけど、背も俺より頭一つ分小さくて、肩や腕もほそっこくて、大丈夫? 折れない? みたいな。
「京極君は見たい本のジャンルある?」
「え? えーっと、歴史系の小説が読みたいかな」
「小説は何階だったかなー」
浅井さんに見とれていて反応が遅れてしまった。でもニコニコしている浅井さんがかわいいので何でもいいです。
それからちょこちょこ雑談しているうちに目的の駅に着いた。浅井さんの気合は十分。俺の期待値も上がりまくりできょろきょろしてしまう。
「あ、京極君こっちだよ」
と、手を引かれた。どうやらあちこち見ているうちに全然違う方に進んでしまっていたみたいだ。手袋がなくて良かったと思う。直接触れた彼女の手は温かかった。
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