飲み会の予定が増えていますね

「あらー」

 嫁がスマホのカレンダーアプリを見ながら声を上げた。原因は先ほど自分が入れた新たな飲み会の予定であろう。

「この時期は飲み会が増えるばかりで嫌になる」

「立場柄断りづらいしねえ」

 そうなのだ。だいたい自分が一番上なので真っ先に予定を確認される。よってスケジュールの都合で断ることがなかなかできない。そうでない場合は会社の幹部クラスの人々との飲み会になるのでますます断れない。あーやだやだ。家でだらだら本を読みながらリンゴジュースとか飲んでいたい。嫁さんにこのあいだ借りた面白そうな本を読まなくてはいけないのだ。あーあーあー。

「まあそういう立場だから仕方ないわね。うまいこと回数を減らしてそういう雰囲気を作るようにしていくしかないわ」

「それができればね……。今どきの若者の飲み会離れなんて言うけど、おじさんこそ離れたいのに」

 なおもブツブツ言っていると妻が苦笑していた。おじさんとて、むしろおじさんだからこそ、できる限り家でだらだらしたい。仕事は仕事でちゃんとする。でもそれはそれとして歳だから体力もないし、そろそろ定年を見据えて家庭内の環境について考えたい。あと今まで頑張って働いてきて懐に余裕も出てきたから本ほしい。嫁さんと大型の本屋で心行くまで本を買って、重い重いと言いながら持ち帰って2人でニコニコと本を積みたい。そのためにも飲み会などでお金と体力を使っている場合ではないのだ。

「まあ、それも投資の一つなのよ」

 嫁は言う。

「そういう機会で人と出会ったり話したり親睦を深めるのも、あなたにとっては大切なチャンスの一つだわ。選択肢を得るためのね。せっかくだからいつも話さないような人と、いつも話さないようなことを話してごらんなさいよ。おもしろいことがあるかもしれないわ」

 こうしていつも彼女に背中を押されている。そうやってここまで生きてきた気がする。彼女がそう言うとそんな気になってしまうのだ。でもいい歳のおじさんはそれを素直に口にすることができない。だからわざとらしくため息をつく。

「はーあ。仕方ないからね。おいしいもの食べて頑張ってきますよ」

「ええ、そうしてらして。おいしかったらその内わたしと藍と紺も連れて行ってね」

 はいはい。そうさせていただきます。彼女にはすべてお見通しで。だから明日も頑張れる。

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