いまはどこに、ボタンの行方

 GWに実家に帰省して衣替えに併せた大掃除を手伝う。と言っても大学を卒業したあとの春休みにも教科書などを置きに戻っているので感慨などはない。そもそも戻る予定もなかったけど母から

「大学出たんだし高校の教科書や制服を片付けなさい。実家は物置じゃないのよ」

 と春休みに言われたのだ。油断するとついつい甘えたくなってしまうけど、うちの親はそういうことを許すタイプではない。なので帰省してせっせと片付けに勤しんでいる。

 実際に片付けをしてみると一言言いたくなった母の気持ちがよく分かった。高校どころか中学の教科書や制服までが積まれている。いやいや、いらないでしょ。片っ端からゴミ袋に突っ込んでいると、高校の時に来ていた学ランが出てきた。しかしボタンが3つほどなくなっている。そう言えば卒業式の時に後輩にあげた気がする。他の2つについては何にも覚えていないという体たらくだ。

 そう言えば今自分がほんのり片思いしている相手、宮部さんはどうだったのだろう。誰かにボタンをもらったりしたのだろうか。心の端がちくりと痛む。かわいいもんな宮部さん。はにかみながらボタンを求められたらボタンどころか学ランごと渡してしまうまである。

「聞きたいけど、そこまで仲良くねえわ」

 一応連絡先は交換してるけど、そんな雑談で連絡できるほど仲がいいとは言えない。スマホの画面を少し眺めてからため息をついて片付けを再開した。

 黙々と片付けをしてひとしきり片付いたところで母から声がかかり昼食にする。久しぶりの母の味は懐かしいと思うほど久しぶりではなくて、それでも普通においしかったからここが生家なんだなとふと思ってしまった。

「この後はどうする? 休んでく?」

「特に決めてなかったな」

「じゃあ買い出し行ってきて」

 母は買い物メモと少し多めのお金と実家の車のカギを渡してそう言った。この準備の良さは最初からその気だったということだろう。素直に受け取って家を出る。近くのスーパーまで車を走らせて買い物をしていると懐かしいお菓子があった。

「あれ? これ最近どこかで?」

 ホント最近、そのお菓子を見た覚えがある。どこだったか?

「あれー羽柴くんだ」

「!!!!」

 聞きたかった声に振り向いたら宮部さんがいた。何故ここに。

「なんでこんなとこにいるの?」

「こ、こっちのセリフです! 俺の実家が近くで、帰省してて。今は買い出しです」

「そうなんだ。わたしの実家もこの辺りなんだよ。わたしも親に頼まれて買い出し」

 宮部さんは思い描いていた通りの可愛らしい笑顔でそう言った。それからしばらく雑談しながら一緒に買い物をして駐車場で別れた。卒業式でボタンをもらったかどうかは聞けなかったけど、会えただけで幸せだ。……そう思っていたこともありました。

「え、マジすか」

「あれー…」

 実家に戻って車を車庫に入れて玄関に回ったら斜め向かいの家に宮部さんが車を入れていた。まさかここまで近所だったとは。さて、俺は彼女になんて声をかけようか。第二ボタンどころではないロマンスを提供できる一言を、俺は思いつけるだろうか?

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