まだ仕舞わないで、そのコート

「あ、そのコート出しといて」

「まだ着る?」

「ううん。クリーニング出す」

 桜も咲いてだいぶ暖かくなってきたので双子の姉妹である藍乃と一緒に冬物の衣類を片付けていた。多少肌寒いときはあるけど、流石に着ないようなマフラーや手袋、厚手のコートなんかを奥に仕舞う。その途中で藍からストップがかかった。

「クリーニング? 珍しいね」

「少し前に着た時にすごい汗かいちゃったから出しておこうかなって。紺乃は?」

「あー、そうだね。せっかくだから出しておこうかな」

 あとどのくらい着るかはわからないけど、確かにカビが生えても嫌だし手入れをするに越したことはない。にしても。

「最近藍はなんていうか丁寧だよね」

「そう?」

「うん。物を丁寧に大事にするようになった」

「あー、そうかも。なんかわたし雑だなって思ったんだよね」

 苦笑いで藍が答えた。なにか、そう思うようなことがあったのだろうか。

「いやほら、わたしと紺って同じようにしてたじゃない? 敢えて似たように、同じようにって。でも藍のこと好きって男の子が出てきたりとか、あと母さんと父さんがちょっとしたことなんだけどわたしと紺の違いを教えてくれたりして、あ、違うんだなって今更ながらに思ったのよ。で、今わたしが持ってるものはわたしだけのものなんだから大事にしなきゃなってなった」

 なるほどなるほど。そうか。なんかすごい。藍はちゃんと考えてる。すごい。

「紺?」

「あ、ごめん。藍はちゃんと考えててすごいなって、びっくりした」

「というか全然考えてなかったことに最近気づいた、かな。それって自分にも紺にも失礼だよねって」

「なんか藍がしっかりしてることにびっくりして泣きそう」

「えー」

 ほんと、うまく言えないけど。藍が遠くに行ってしまうようで寂しい反面、尊敬もした。わたしも負けてられないな。

「ねえ藍」

「うん」

「頑張ろう」

「そうしよう」

 そして2人でまた片付けを続ける。わたしとあなたは別である。今更ながらに実感して、それが寂しいけど嬉しかった。

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