今年がもう三か月経ったとか信じられない

「日々が過ぎるのが早すぎるわ」

「そう? でも確かにあと一週間で学校始まるからなー」

「若いうちの方が体感時間が長いというわね」

「え、お母さんなにババ臭いこと言ってんの」

 婆だからです! なんて言っても今を輝く女子高生には伝わらないだろう。その内親が老け込んでることに気が付いて愕然とするのよ。

 今日は春の穏やかな晴れの日で風もゆるゆると暖かくて気持ちがよさそうだけど、家族全員花粉症の浅井家ではこんな時期に窓を開けることはできない。その分日の当たるリビングで娘とだらだら過ごしている。今いるのは双子の紺乃の方で藍乃はじゃんけんで負けておやつを買いに行っている。

「ねえ、藍ってマメだよね」

「そうね。あの子赤ちゃんの時からやたら几帳面なのよね」

「そうなの?」

「そうよ。1歳半くらいのときからあなたやわたしが脱いでその辺にほったらかしてた服を洗濯機に放り込んでたわね」

 そうなんだ、と紺は考え混むような顔をした。

「紺は昔から、それこそ1歳そこらの時から本好きだったわよ。お気に入りの絵本を何回も読んでくれってせがむし、2歳くらいからは自分で覚えて暗唱してたし」

「……そんなに違うものなんだね」

「そりゃそうよ。違う人間だもの。あなたたち頑張って隠してるけど、得意科目や苦手科目も違うでしょ」

「え、知ってたの」

「知ってたわ。当たり前すぎて言わなかっただけよ」

 紺が気まずそうな顔をしている。紺にしろ藍にしろお互いに同化しようとする節があったから、こうやってそれぞれの個性について考えるのはいい事だ。

「なんか藍が遠くに行っちゃうみたいで寂しいな」

「あなたも適当にうろうろしたらいいのよ。最初は近くから、少しずつ遠くへ」

「お母さん、たまにいいこと言うよね」

 婆だから。年の功ってやつね。あと『たまに』は余計よ。

「うん。でもそうだね。ちょっとずつ一人で歩かないと。あんまり藍に甘えてちゃだめだな」

「ほどほどで良いのよ。お互いに甘えたいときは甘えればいいし」

 別にいきなり決別することもないし。巣立ちは徐々にでいいのだ。いきなりいなくなったら寂しいじゃないか。わたしが。

「うん。じゃあ今日は藍と違うおやつにしよう」

「いいわね。わたしは何にしようかな」

 そうこうしているうちに藍が帰ってくる。残り一週間の彼女らの穏やかな春休み。わたしもご相伴に預かるとしよう。

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