昼は暖かかったんだけどね。夜桜で風邪をひく。

「九死に一生を得ました」

 深々と命の恩人に頭を下げる。と言っても俺は横になったままだけど。どういう事かと言えば数時間前に大学の時の友人である未吉に彼女の専門分野のことで電話をしたらどういうわけか家に行くことになった。そしてそこには浅井先生の家でお会いした西浜さんがいて混乱に陥り、そのまま俺は気絶した。意味が分からないって? 大丈夫、俺もだ。

「やー、南雲くん顔真っ赤だからびっくりしたよ」

 未吉がカラカラと笑って頭のタオルを取り換えてくれた。彼女の話によると俺を呼び出したら顔は真っ赤で目が座っている状態でやってきて西浜さんの顔を見て変な声を上げて倒れたという。確かにここ数日忙しくてろくに飯も食ってなかったけど。それとも昼間暖かいからと薄着で寝たのがいけなかったのだろうか。

「南雲さんお目覚めですか? 食欲はありますか?」

 控えめな西浜さんの声がかかる。彼女の手にはポカリスエットが握られていた。ぶっ倒れた俺は未吉と西浜さんの手で空いていたという和室に隔離されて客用布団に寝かせてもらっていた。2人とも俺と同じ独身のはずなのに気が利くし優しいし、体調最悪だから余計に他人に親切にされて泣きそうである。

「まだあまりお腹空かないのでそのポカリだけください」

「どうぞ。お腹が空いたら食べられるようにお粥もありますから言ってくださいね」

「あの」

「はい? 氷枕と濡れタオルもお持ちしますよ」

「そうではなく」

「?」

「カレーを」

「え」

「カレー、あるんですよね? 今は食べられないけど絶対に食べたいので俺の分残しておいてもらえませんか」

 痛む喉に鞭打って頼むと西浜さんはぽかんとしてから「はい、残しておきます」と笑ってくれた。嬉しい。やった。絶対死ねない。死んでも風邪治す。何が何でも西浜さんのカレー食べるんだ。そう思っているうちに気が付いたら寝てしまっていた。

 

 

「死んでも風邪治して景のカレー食べる言ってるけど」

「カレー好きなんだね」

「違うでしょ。景のカレーが好きなんでしょ」

「そうかなあ」

「そうだよ」

 2人がどんな顔でそんな会話をしていたか俺は知らない。

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