恩師の顔を思い出す
さて、入社して数週間である。配属先にそろそろ慣れてきたかな? どうかな? というところでGWという連休に入るが、その前に新入社員の歓迎会がある。それが終わったらそのまま休みに入れるので多少緊張しつつも少しは飲めるかなと期待して参加した。
しかし社会はそう甘くなかった。大学生のころから気になっていた先輩である宮部夕さんの隣に座りたかったが彼女は部長の浅井さんの横でなにやら話し込んでるし、俺は男の先輩にがっちり囲まれてしまった。そして彼女はいるかだの仕事は楽しいかなどあれこれ質問されたり、ビールを注ぐときのコツなどを教えてもらったりしてる。これはこれで楽しいけど、がっつり飲むわけにもいかないし宮部さんが浅井さんとめちゃくちゃ楽しそうにしてるのが気になるしで気が気じゃない。
そこに救いの天使が現れた。
「羽柴くん」
「宮部さん!」
なんと宮部さんがわざわざ俺のところに!
「浅井さんが呼んでるから行っておいで」
はい、そういうことですよね! 知ってました!!!! 俺は涙を隠して上司の元へ向かう。宮部さんと飲めなかったこともさることながら浅井さんの呼び出しにめちゃくちゃ緊張する。部長だぞ? 俺の親父より年上だぞ? 50歳超えてる??? はずなのにすっきりしたダンディズム溢れる上司だ。ほとんど話したことなどない俺に一体何の用だろう。
「呼び立ててしまってすまないね。お腹は空いてないかな? 酒は足りてるかい?」
「はい、十分いただいてます!」
「それは良かった」
え~なにこの気遣い。部長だよな? めちゃくちゃ親切じゃん。ふと大学の時のゼミの先生を思い出す。あの人も穏やかで優しくて、でも的確なコメントをくれる人だった。浅井部長もそういう雰囲気があって安心できる。
「会社には慣れたかな」
「はい、少し落ち着いてきました。先輩方にも親切にしていただいています」
「それは良かった。GW明けからは本格的に仕事を任せていくから楽しみにしていてください」
その後は少し雑談しているうちに飲み会自体が終了になった。浅井部長の意向で2次会は各自で好きに、ということなので帰ることにする。宮部さんが帰り際に声をかけてくれた。
「お疲れ様。初めての飲み会どうだった?」
「はい、楽しかったです」
「なら良かった。わたしとの約束覚えてる?」
「は、はい! 忘れるわけありません!」
「あはは。じゃあGW明けの週末どう?」
「ぜひ!」
思わず即答する俺に宮部さんがくすくす笑う。気恥ずかしくて変なにやけ面になってしまった。
「ならお店探しておくね。GW明けからはお姉さんが扱くから楽しみにね。おやすみ」
「え、はい。おやすみなさい!」
そして宮部さんは振り返らずに立ち去った。他の先輩たちも帰宅したり仲の良いもの同士で2次会に向かったりしている。浅井部長が素早く帰宅したから他の人が帰りやすいのだろう。俺も胸に温かいものを抱えて駅に向かう。
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