陽を求めて選んで歩く

 先生の家に言ったら美人がカレー食べてた。

 

 最初から話そう。昼過ぎに翻訳家の先生の家に新しい仕事の相談に行った。そしたら他社の編集らしき美人が先生とカレーを食べていたのだ。そこまで情報が増えなかった。

「浅井先生、お食事中に申し訳ありません」

「私もお時間過ぎてしまい申し訳ありません。片付けますね」

「南雲くん、ごめんなさいね。西浜さんが持ってきてくれたカレーがおいしくて、ゆっくりしすぎちゃったわ。あ、良かったら食べる?」

「え、いいんですか。いただきます」

 いただきますじゃねえし! あまりにいい匂いだったから釣られてしまった。お昼ごはんは某牛丼屋のカレーだったけど、どうだろう。それよりおいしかったりするのだろうか。俺がぼんやりしている間に西浜さんというらしい美人がカレーライスを少しだけ持ってきてくれた。

「いただきます。……おかわりください」

「はやっ!?」

 西浜さんは目を丸くしつつも先生に許可をもらっておかわりを先ほどより多めに持ってきてくれた。

「ありがとうございます。いただきます。お~いし~」

 めちゃくちゃおいしかった。え~なにこれ~。彼女は本当に編集の人だろうか? 実は料理人の方では? ああおいしい。めちゃくちゃおいしい。毎日食べたい。

「ごちそうさまでした。ありがとうございました」

 手を合わせて西浜さんにお礼を言う。西浜さんは素敵な笑顔でお皿を下げてくれた。

「あの浅井先生? 西浜さんはどういったお知り合いでいらっしゃるんでしょうか?」

「彼女? S社の新しい担当の方よ。先週ご挨拶に来てくださってね。今週頭の昼時にいらした際にスープジャーでカレーを持ってきていて、少しいただいたらとてもおいしかったから作り方を教えてもらってたのよ。時間推しちゃってごめんなさいね」

「いえとんでもない。おいしかったです。本当に」

「そうみたいね。料理人? おいしい、毎日食べたいって言いながら掻き込んでたものね」

「え、口に出してました……?」

 はずかし!!!! マジすか……。それ西浜さんにも聞かれてたんだろうなあ。初対面で図々しい、恥ずかしい。

「あの、私そろそろ失礼しますね。南雲さんもお忙しいのに時間押してしまってごめんなさい」

「とんでもない! おいしいカレーをありがとうございました!」

「お口に合ったようで何よりです」

 西浜さんはそつのない挨拶をして去って行った。ああ行ってしまった。もうこれっきりかなあ……。

「南雲くん、捨てられた子犬みたいな顔してるわよ」

「そ、そんなことないですよ。それより新しい仕事お持ちしましたよ」

「どんなお仕事かしら。カレー、少し持って帰る?」

「いただきます。エッセイの訳なのですが……」

 その後話を聞いた先生はすんなりと仕事を受けてくれた。西浜さんについて聞きたいところだけどそこは我慢しよう。縁があればまた会えるはず。たぶん。

 

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